
この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・学校現場にありがちな「今までどおり」という働き方についてリスクを感じる人。
なぜ「前例踏襲」は学校法人のコンプライアンス上のリスクになるのか

この補助金の申請書類、なんでこの添付資料が必要なの?

え、去年どおりにそろえただけなんですけど。
これは、私が私立学校事務員として働くなかで幾度となく耳にしたやり取りです。

というより、私もこの会話の当事者だったりします。
学校現場ではこのような補助金申請のケースに限らず、「前例踏襲でいい」という考え方が浸透しています。
ルーティン業務や年間スケジュールが固定的な事務員にとっては合理的な考え方であり、一見すると作業がスムーズに進むように感じられます。
しかし、学校法人のコンプライアンスという観点から見ると、この「前例踏襲」という言葉は非常に大きなリスクを含んでいます。
まず、前例がいつ作られたものなのか、誰が判断したのか、どのような背景で決められたのかが曖昧なケースが多いという点です。
学校法人は長い歴史を持つことが多く、数年前、あるいは十年以上前の前例がそのまま残っていることがあります。
ところが、その前例が現在の法令や規程に適合しているかどうかは別問題です。
法改正や制度変更は頻繁に行われますが、前例が更新されていないまま使われ続けると、知らないうちにコンプライアンス違反を起こしてしまう可能性があります。

なんの根拠もない慣習が、前例として引き継がれているというケースもありますね。こっちの方がリスク大です。
次に、前例がブラックボックス化しやすいという点です。
先ほど述べたとおり、前例が慣習化しており、それが明確な文書として残っておらず、担当者の記憶頼りや口頭でのやりとりで引き継がれているという状況は、学校現場では珍しくありません。
だから、監査の際に「なぜこの処理をしたのか」と問われても、担当者が説明できないという事態が起こり得ます。

冒頭のやりとりのように「前からですけど」としか言えなくなってしまうんですよね。
さらに、前例踏襲は「考えなくていい」という心理を生みやすい点も危険です。
前例があるからといって、現場の状況や依頼内容が完全に同じとは限りません。
むしろ、学校現場は毎年状況が変わり、依頼者の意図も変わります。
前例をそのまま使うことで、必要な確認を省略してしまい、結果的に不適切な処理をしてしまう可能性があります。

へたに変更して何か言われるのが嫌であえて前例踏襲する事務員もいますよ。
自分じゃなく前任者の責任にしたいんでしょうね。
つまり、「前例踏襲でいいよ」という言葉は、学校法人の説明責任やコンプライアンス上、大変大きな危険性を内包しています。
事務員はこの言葉を聞いた瞬間に「本当に前例でいいのか?」と立ち止まり、前例の妥当性を確認する姿勢が求められます。
この記事ではそんな「前例踏襲」を疑うためのヒントになるような情報を、私の経験も交えながら紹介しています。
業務を進めるうえでの参考にしていただければ幸いです。
私立学校事務員が「前例踏襲」に違和感を覚える瞬間とは
先述したとおり、基本的に私立学校事務員の業務は前例踏襲で成り立っていることが多いです。
そのため、なかなか違和感を覚えるケースはありません。

長く働けば働くほど「今までどおりなら別にいいか」という意識が染みついてしまうんですよね。
そんな事務員でも「ん?」と違和感が芽生える場面がいくつかあります。
そのなかから私の経験上、出くわす頻度が高いと感じるものを3つピックアップしましたので、それぞれ見ていきましょう。
①必要性が不明の場合
当たり前ですが、「これ必要?」と感じたときに違和感を覚えます。
例えば、行事の業務分担表。
毎年開催される行事であれば、ほとんどの場合、前例踏襲で資料も作成されます。
しかし、そこに罠が。
何らかの事情により、ある年だけ特別な業務が発生することがあります。
そんなとき、本来翌年度にはその業務は不要であるため分担表からは消す必要がありますが、なぜかそのままにされてしまいがちです。

担当が変わってうまく引継ぎがされていないんでしょうね。
明らかに「この業務は必要ない」と感じて担当者に尋ねても、担当者は「今までどおりです」と答えます。
この時点で「おかしい」と感じて見直すことができればよいのですが、これがスルーされてしまうとあとから修正することが難しくなります。
事情を知る人がいなくなってしまう可能性があるからです。
このように、前例がどのような背景で作られたのかを知らないケースは多いです。
「必要性」は大事なサインの一つなので、小さなことでも放置せずに必ず「これ必要?」と確認するようにしましょう。
②法令や規程が記載されている場合
これは少しひねくれた見方かもしれませんが、私は文書に法令や規程が記載されていると「ん?」と引っかかってしまいます。
「この法令(規程)、今もあるのかな」と思ってしまうからです。
というのも、私自身これで失敗した経験があるから。
大学の学納金未納者に対する督促文に「〇〇規程第△条に基づき・・・」という一文があったのですが、よく確認せず前例踏襲で同じ文面で使い回していました。
ところがあるとき、とある学部の学部長から「ここ、おかしくない?」という問い合わせがありました。
あわてて規程を確認すると、なんと条文にズレが。
ある条文が削除された関係で、条文の数字が変わっていたのです。

元々は第10条だったのに、別の条文が削除された関係で第9条になっていたとう感じですね。
それ以来、規程等を見ると怪しんでしまうようになりました。
こうした法改正や制度変更などの確認漏れも起こりがちですので、見かけたらチェックすることをおすすめします。
③「時代」を感じる場合
これは「今の時代に何で?」という違和感です。

長きに渡って踏襲されている前例にありがちですね。
よくあるのが印刷物。
「この印刷物はこの会社に発注する」という暗黙のルールのようなものが出来上がっているケースによく遭遇します。
そこで担当者に「どうしてこの会社でないとだめなのか」と尋ねてみると、大概「前からその会社だから」という答えが返ってきます。
印刷物もネット注文できる時代。
わざわざ、電話と対面で原稿を何度もやり取りするのは正直非効率なことが多いです。

入試問題とかだと機密情報の関係があるので理解できるんですけどね。
しかも、そういうケースに限ってネット注文で見積もりを取ってみるとその方が安い。
非効率かつコスト面でもメリットがないというどうしようもない状況だったりするわけです。
インターネットやキャッシュレスといった時代の流れと逆行するような場面に遭遇した際は要注意です。
実録:「こんなところにも前例踏襲が」の事例
ここからは、私が実際に経験した具体的な前例踏襲の事例を紹介します。
ちなみに以前の記事で私が入職1年目にやらかした失敗談を紹介しましたが、そのなかにも前例踏襲が原因だったものがあります。
そちらもご覧いただければと思います。
こうした事例をあらかじめ知識として頭に入れておくことで、同様のケースに遭遇した際に「これはひょっとすると・・・」という気づきにつながるはずです。
どの学校でもありそうなもの選んでみましたので、参考にしていただければと思います。
事例①契約期間の確認漏れ
これは、私が以前の勤め先で経理・会計担当部署に所属していた時の話です。
経理処理のために日々大量の請求書が届くわけですが、そのなかには業務委託料やライセンス料といった「契約期間」が含まれるものがあります。
一応そういったものが手元の届いた場合、前年度の請求内容を確認します。

「金額に変更はないか」や「どの勘定科目で処理をしたか」などを見るわけですね。
そのチェックの際、請求書に「年間契約料」と記載されていることに気がつきました。
ただ気づいてはいたのですが、前からずっと契約しているものなので「今までどおりだからいいか」と思い、特に具体的な契約期間まで確認することはしませんでした。
ところがこれがミスでした。
後々、契約を見直す機会があり、担当者と話をしていると契約期間が年度をまたいでいることが判明したのです。
補助金上は、当該年度にかかる料金分のみを費用として計上しなければなりません。
これは会計検査院の指摘事項でよく挙げられる事例でもあります。
詳しくは以下の記事もご覧ください。
その後適切に対応し、「補助金の不正受給」という最悪の事態は免れましたが、今までどおりの処理が正しいとは限らないことを味わった出来事でした。
事例②取引会社の見直し(成功例)
これは今の勤め先での話です。
「違和感を覚える瞬間」のところでも触れましたが、以前から同じ会社とずっと取引を継続するというのはよくある話です。

見直すとなると、またイチから説明しないといけないので面倒なんですよね。
こうした私のような考え方の事務員は少なくありません。
ただこれが学校の財政状況に悪い影響を与えていることもあるのです。
私の今の勤め先は、都市部から離れたところに位置しています。
そのため、昔は取引先がかなり限られていたようです。
その名残もあって、「事務用品を買うならここ」「工事関係ならこの会社」といったことが前例踏襲されていました。
しかし先ほど述べましたとおり、今ではインターネットなどを活用すれば取引先を見つけることが容易になりました。
そこで、事務用品や印刷物などあらゆるものを既存の取引先からネット通販などに変えたのです。
その結果、コスト削減ができたことに加え、事務手続きも簡素化することに成功し、業務がスムーズになりました。

なんせ電話とFAX、対面でのやりとりがメインでしたからね。
取引先の見直しは「昔からの付き合いがあるから」ということで二の足を踏んでしまいがちです。
さらに新たなサービス等の初期設定なども手間がかかります。
こうした精神的負担はありますが、その先にはその負担を乗り越えたことに見合うメリットが待っていますので、うまくいった未来をイメージして重い腰を上げてみましょう。
事例③取引会社の見直し(失敗例)
参考までに前例踏襲を見直そうとして失敗した話も紹介します。
これは今の勤め先で電力会社を見直した際の話です。

経費削減ならやっぱり固定費からでしょ。
と思い、新電力の会社に連絡をとり、会社を変更しました。
ところが数年後、その会社は民事再生へ。
結局、別の会社にお願いすることになり、電気代も会社変更前と同程度に戻ってしまいました。
取引先の倒産リスクは担当者として確認しておく必要があります。
しかしそれを疎かにし、安さに魅力を感じて乗り換えてしまったことが失敗の要因だったと思います。
こうしたケースもあることを踏まえて、前例踏襲に立ち向かいましょう。
まとめ:担当者の定期的な変更が前例踏襲を防ぐカギ
学校現場で頻繁に見かける「前例踏襲」という考え方は、便利な一方で大きなコンプライアンスリスクを抱えています。
必要性が明確ではない、法改正等に対応していない、時代に合っていないなど、業務を遂行するうえで「おや?」っと感じる瞬間が潜んでいます。
だからそうした違和感を覚えた瞬間、それを放置せずに前例の妥当性確認や規程との整合性チェックを行いましょう。
さらに組織として有効なのが「担当者の定期的な変更」です。
新しい目で見ることで、違和感に気づく機会を増やすことができます。
これにより学校法人の信頼性は大きく向上するはずです。
前例踏襲は「考えなくていい」ではなく、透明性を高めるための重要な見直しポイントであることを意識しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。


