
この記事は以下のような人を対象としています。
・私立学校の社会保険制度に関する理解を深めたいと思っている人
はじめに:高額療養費・短時間労働加入者のポイントをおさえよう
日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)が毎月発行している「月報私学」という広報誌があります。
このブログでも、その中身について各月号ごとに読むべきポイントなどを紹介してきました。

関連記事は月報私学3月号に関するものですが、記事内に他の月号を紹介した記事へのリンクが掲載されていますので、ご利用ください。
そんな「月報私学」の2026年8月号に、「高額療養費」と「短時間労働加入者」の今後に関することが掲載されていました。
この2つについては、どちらも社会保険に関わるものです。
従って、私立学校事務員の業務としてだけではなく、イチ社会人としても理解しておくべき重要なものになります。

社会保険と税金の基本的な知識は必須ですよ。
なお、以前の記事で、社会保険や税金(主に所得税)に関する基礎知識について解説していますのでそちらもご覧いただければと思います。
そこでこの記事では、「高額療養費」と「短時間労働者」について私が最低限知っておくべきと考えているポイントについて解説します。
それぞれ「基本的な内容」「今後の変更点」という構成で内容をまとめています。
皆さんの業務に関する知識の習得にお役立ていただければ幸いです。
なお、この記事は掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
トピックス① 高額療養費
自分が対象になる機会があまりない「高額療養費」
そのため、イメージしづらい人も多いのではないかと思います。
実際、私は社会保険の事務手続きを担当するようになって初めてその存在を知りました。

社会人になってから8年目くらいのころでしたね。
ただ、これを知っていると実務だけでなく、民間の保険(医療保険など)に入る際の判断基準に活かせるといったメリットもあります。
ぜひ、以降の解説を見て、基本となる部分をおさえておきましょう。
そもそも「高額療養費」とは
高額療養費制度は、医療費が高額になった際に、家計への過度な負担を防ぐために設けられた公的医療保険の仕組みです。
ざっくり言うと、
「1ヶ月(1日から月末まで)の医療費の自己負担額は上限があるよ」
「その人の所得によって自己負担の上限額が決まるよ」
という制度になります。

あと、70歳未満か以上かでも上限額が異なりますよ。
詳しい金額や計算方法については私学事業団のホームページで確認しておくことをおすすめします。
限度額適用認定証、限度額適用・標準負担額減額認定証
(私学事業団ホームページへのリンク)
一般的に、年収500万円クラスだと「標準報酬月額 28万から53万円未満」にランクされます。
従って、このランクの人が総医療費100万円の治療を受けた場合、約8万7千円が自己負担限度額になるわけです。
大抵の方は「標準報酬月額 28万円未満」または「標準報酬月額 28万から53万円未満」に当てはまると思いますので、大まかに自己負担上限額はそれぞれ「6万円弱」「8万円くらい」と説明できるようにしておきましょう。
あと、この制度が適用されるタイミングが大きく2パターンに分かれていることもおさえておく必要があります。
2パターンとは「最初から」か「後から」か、ということです。
「最初から」というのはあらかじめ私学事業団から「限度額適用認定証」というものを交付してもらい、医療機関に提示した場合になります。

ちなみにマイナ保険証であれば、この認定証なしで高額療養費制度の適用を受けることができますよ。
一方「後から」の場合は、先に医療費を負担し、後日、自己負担限度額との差額分が私学事業団から返金されるというかたちになります。
先ほどの総医療費100万円のケースですと、まず通常の3割負担分30万円を支払います。
そして、後ほど自己負担限度額約8万7千円との差額である約21万3千円が返ってくるというイメージになります。

通常、病院で治療を受けた場合、自己負担は3割負担であるという点は当然理解しておいてくださいね。
「なんで100万円なのに支払うのは30万円でいいの?」なんて言わないように。
私の経験上、教職員が「医療機関の人から『限度額適用認定証を学校でもらってきて』と言われた」と言って尋ねてくるパターンがほとんどです。
だから私立学校の事務員としては、教職員からのこうした相談対応の場面で、基本的な仕組みや手続きの流れを説明できるようにしておくことが重要です。

頻度はそれほど多くありませんが、尋ねられた際にスムーズに対応できると周りからの信頼度がアップしますよ。
なお、民間の保険に入るか検討する場合、この制度のことを念頭に置いておくことをおすすめします。
- 入院したら医療費がたくさんかかりそうだから、保険に入っておこう。
- 最終的には8万円ちょっとの負担でいいんだから、保険はいらなくてもいいか。
どちらの考え方をとるかは個人の勝手ですが、高額療養費の知識がないと、前者の選択肢しかないように思い込んでしまうので、不要な保険に入ってしまう可能性が生じます。
ちなみに、公益財団法人生命保険文化センターの2024(令和6)年度「生命保険に関する全国実態調査」によると、生命保険料だけで1世帯当たり平均35.3万円/年も支払っているようです。
2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査
(公益財団法人生命保険文化センターホームページへのリンク)
個人的にはとても少ない支出とは思えません。
この制度を知らずに、「不安だから」という理由だけで保険に入っているのであれば、一度契約内容を見直してみてはいかがでしょうか。
「高額療養費」の自己負担額の見直し
2026年8月号の月報私学では、高額療養費制度に関する段階的な見直しについて紹介されています。
特におさえておきたいのは「令和8年8月からの自己負担額引き上げ」「令和9年8月からの所得区分の細分化」です。

「一部負担金等年間世帯合算額の新設」もあるんですが、正直、かなりレアケースという印象なので、この記事では触れずに進めていきます。
「令和8年8月からの自己負担額引き上げ」については、具体的な区分表が月報私学に掲載されていますので見ておきましょう。
この表に基づくと、先ほどの「標準報酬月額 28万から53万円未満」の人が総医療費100万円の治療を受けた場合の自己負担限度額が、約8万7千円から約9万3千円にアップすることになります。

この制度とあまり縁のない人にとっては、大した値上がりには感じないかもしれませんね。 実際、私の周りでは「その程度の差か」という意見が多数です。
ただ、恒常的に利用している方々にとっては大きな負担増ですよね。
あと、「令和9年8月からの所得区分の細分化」については、まだ具体的な内容まで触れられていませんので、今後の情報公開を待ちましょう。
高額療養費制度については、とにかく「自分が結局いくら負担しないといけないのか」だけ教えてほしいという人がほとんどです。
だから、所得区分や限度額の変更に関する情報には常にアンテナを張っておきましょう。
トピックス②短時間労働者(社会保険加入)
続いては、短時間労働加入者についてです。
短時間労働者の社会保険加入は、学校現場でも近年特に重要性が増しているテーマです。
私立学校では、非常勤講師やパート職員、補助スタッフなど、多様な勤務形態の職員が働いており、社会保険の加入要件を正しく理解しておくことは、事務員にとって欠かせない業務の一つです。

特に非常勤講師の人は、「社会保険に加入できないのか」と言ってくる人が多いですよ。
実際、私の以前の勤め先で非常勤講師の方とトラブルになったこともあります。
「社会保険に加入できると聞いたから、この学校と契約したのに」と言ってきたのです。
担当コマ数の変更により、社会保険入の条件を満たさなくなったことが原因でした。
このようにトラブルのもとにもなりかねない制度ですので、リスク回避のためにも事務員として理解しておく必要があります。
そもそも「短時間労働加入者」とは
短時間労働者の社会保険加入要件は、従来は「週30時間以上の勤務」が原則でした。

正社員が週40時間(8時間/日×5日/週)働くとみなして、その3/4くらい働いていたら社会保険に入れたというわけですね。
しかし、制度改正により、一定の要件を満たす短時間労働者も加入対象となっています。
具体的には、
- 週20時間以上の勤務
- 月額賃金が8万8千円以上
- 2カ月を超える雇用の見込み
- 学生でない
- 学校法人等全体で70歳未満の通常の加入者が51人以上の規模
といった要件です(令和6年10月からの要件)。
ちなみに⑤の要件を満たす学校法人等を「特定学校法人等」と言います。
これにより、社会保険に加入できる人が増えたわけです。

いいことですね。
そう感じた人も多いと思います。
実際のところ、労働者側には以下のようなメリットがあると考えられます。
- 掛金負担の軽減
- 傷病手当金や出産手当金などの保障
- 厚生年金に加入による将来の年金額の増額
これらを理解するためには、社会保険の基本をおさえておく必要があります。
まず「掛金負担の軽減」ですが、私学共済に加入しない場合、自分で国民健康保険に加入しなければなりません。

日本は「国民皆保険」なので、何かしらの社会保険に入らないといけませんよ。
この国民健康保険の掛金(保険料)は全額自己負担です。
さらに配偶者や子どもがいる場合、その掛金も負担する必要があります。
一方、私学共済の加入者になると、掛金は自分と学校法人の折半になります。
しかも配偶者や子どもを含めても、掛金は自分ひとりのときと同じです。
そのため負担軽減につながるというわけです。
次に「傷病手当金や出産手当金などの保障」ですが、これは単純に国民健康保険にはこのような保障がないということです。
最後は「厚生年金に加入による将来の年金額の増額」です。
個人だと老齢基礎年金のみですが、私学共済に加入することで老齢厚生年金の支給対象者にもなります。
掛金も増えますが、もらえる額も増えることになります。
ただその一方で、学校法人側にはデメリットがあります。
なかでも一番のデメリットとして考えられるのは「掛金の負担」です。
これまで加入できなかった人が加入者となることで、前述のとおり掛金を折半して払うことになります。

その負担が地味に経営へダメージを与えることになるわけですね。
事務員としては、手続きや用件だけでなくそうした面も理解しておく必要があると私は思っています。
「被用者保険適用拡大」の今後の予定
令和4年から段階的に要件が変わってきていますが、さらに今後も適用拡大の方向で要件が変更される予定です。
まず先述の要件⑤の人数が段階的に減っていきます。
最終的に令和17年10月1日以降にはこの人数要件は撤廃されます。
そうなると、私のような小規模学校法人でも否応なしに短時間労働者を加入者として扱うことに。
先ほど述べたように、社会保険料の負担がのしかかってくるというわけです。
あと、令和8年10月からは②の月額賃金の基準がなくなる予定です。

確かに私の勤め先の現状を見ても、週20時間勤務をしている人は自動的にこの要件を満たしている様子ですからね。
短時間労働者にとって社会保険加入は賃金の額と同等かそれ以上の関心ごとです。
事務員としてその動向に常に目を光らせておきましょう。
まとめ:事務員としておさえるべき要点
まず、高額療養費については「所得区分」「自己負担限度額」「適用のタイミング」という3つのポイントをおさえておくことが重要です。
制度の細かい内容は複雑ですが、基本的な仕組みをだけでも理解しておけば、教職員からの相談にも十分落ち着いて対応できるというのが私の実感です。
また、制度改正についても3つのポイントをメインにおさえておきましょう。
短時間労働者の社会保険加入については「加入要件」「加入者のメリット」「学校法人のデメリット」の3点について整理しておくことをおすすめします。
非常勤講師やパート職員など、多様な勤務形態が存在する学校現場では、加入判定を誤ると大きなトラブルにつながる可能性があります。
毎年、要件緩和があり、加入対象が拡大しているため、学校法人としての抜け漏れがないようにしておきたいところです。
高額療養費と短時間労働者の社会保険加入は、どちらも教職員の生活を支える重要な仕組みであり、私立学校の事務員にとって業務に関わる可能性の高いテーマです。
制度の内容を正しく理解しておくことで、教職員からの相談に適切に対応できるようになり、それが学校法人としての労務管理の質を高めることにもつながります。
また、制度は自分自身にも関係するため、知識を持っておくことで、いざというときに役立ちます。
ぜひ、知識を身につけて活かしましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。



