
この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・私立学校に求められる安全配慮義務について基本的なことを知っておきたい人。
事務員も無関係ではない!私立学校に求められる安全配慮義務
この記事を書いている2026年も、上半期に様々な学校に関する事故が起こりました。
- 部活動遠征におけるバスの事故
- 音楽室からの失火による火災
- 平和学習中の水難事故
こうした事故の際に問題となるのが「安全配慮義務」という法的責任です。
安全配慮義務は、教員や管理職が意識しておけばよいものだと思われがちですが、実際のところ、その認識の甘い教員や管理職が多い。
だから事務員がサポートに回る必要があるわけです。

「チーム学校」として取り組む必要があるわけですね。
後ほど詳しく解説しますが、私立学校は学生生徒等と学校法人との間で結ばれる「在学契約」に基づいて教育サービスを提供しています。
この契約関係があるため、学校法人には安全配慮義務が生じ、学校管理下にある生徒の安全を確保する責任が発生します。
だから、事故やトラブルが起きた際には、学校として「どのような安全管理体制を整えていたか」「危険を予見し、適切な措置を講じていたか」が問われることになります。
そして、その体制づくりの多くを裏側で支える存在なのが事務員なのです。
例えば、大学など規模の大きな学校法人であれば、安全計画やリスク管理に関する組織の運営やマニュアルの整備、高校などであれば、施設設備点検の実施・記録、行政や他校における安全管理に関する情報の収集など、事務員が関わる領域は広範囲に及びます。

高校だと安全計画の策定などは校長と教員が中心になっている場合が多いですね。
これらは単なる事務作業ではなく、学校の安全配慮義務を果たすための重要な実務であり、ひとつのミスが学校全体の責任問題につながることもあります。
私立学校事務員にとって、安全配慮義務は少し難しく感じられるかもしれません。
しかし、基本的な考え方と事務員として押さえるべきポイントを理解しておけば、日々の業務の中で「これは安全管理に関わる仕事だ」と判断できるようになり、学校運営における自分の役割がより明確になります。
本記事では、私立学校の安全配慮義務の基礎から、事務員が実務で意識すべきポイントまでをわかりやすく解説します。
皆さんの学校での安全管理を考えるために役立てていただければ幸いです。
なお、この記事は掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
私立学校における「安全配慮義務」とは
まずは基本となる部分をおさえておきましょう。
安全配慮義務の知識を深めるために役立つ書籍がありますので、その内容を参考にしながら解説していきます。
【書籍紹介】
書籍名:改訂新版 問題を解決する学校法務
著者名:弁護士法人 名川・岡村法律事務所
出版社:時事通信出版局
発売日:2024年2月15日
まず安全配慮義務を理解するために知っておくべきことがあります。
それが「在学契約」というものです。
書籍でこの在学契約について説明している箇所がありますので引用します。
大学と学生との間には、通常、大学が学生に対し、その施設を提供し、大学の目的にかなった教育役務を提供する義務を負い、学生は大学の指導に服して教育を受け、授業料を納付する義務を負うことを内容とする在学関係契約が存在します。 P27
「改訂新版 問題を解決する学校法務」より引用
この在学契約の付随的義務として発生しているものが「安全配慮義務」であると書籍では解説されています。
この在学契約に内在する義務あるいは付随的義務として、大学は学生の生命、身体、健康に対する安全について配慮する義務を負います。この義務は安全配慮義務と呼ばれます。 P28
「改訂新版 問題を解決する学校法務」より引用

「大学」や「学生」は各学校の呼び方に合わせて読み替えてくださいね。
「高校」なら「生徒」みたいに。
まとめると、学生生徒等と学校法人との間には「在学契約」があり、それに基づく付随的義務として、私立学校は学生生徒等への「安全配慮義務」が生じているということになります。
つまり、私立学校は契約に基づく教育サービスの提供者として、危険を予見し、事故を防ぐための体制を整える義務があるというわけです。
ここで重要なのが「学校管理下」という概念で、授業・部活動・行事・休み時間・校外学習など、生徒が学校の管理下にあると判断される場面は広範囲に及びます。
「学校管理下」については、日本スポーツ振興センターのQ&Aが参考になると思いますので、そちらもご確認ください。
よくあるご質問(学校の管理下の範囲)
(日本スポーツ振興センターのホームページへのリンク)
まずは上述のような前提に基づき、「私立学校には生徒の安全を守る義務がある」という基本を押さえておくことが大切です。
在学契約が生む学校法人の法的責任
前述のとおり、私立学校では、保護者と学校法人の間で「在学契約」が結ばれます。
契約がある以上、学校は生徒の安全を確保する体制を整える義務を負い、事故が起きた際には「契約上の義務を果たしていたか」が問われます。
事務員としては、法律の専門知識を深く理解する必要はありませんが、この法的責任がどのような法律に基づいているかはおさえておきたいところです。
ちなみに、
公立学校:国家賠償法
私立学校:民法
といったように、学校によって法的責任を求める根拠となる法律が異なる点も理解しておくといいでしょう。
以降では、基本となるものを3つ取り上げて解説します。
日常生活にも深く関係|民法709条
1つ目は「不法行為責任」です。
こちらは民法709条に定めがあります。
覚える必要はありませんが参考までに載せておきます。
(不法行為による損害賠償)
e-GOV法令検索より引用
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

いきなり難しそうな言葉がいっぱい出てきましたが、まだ読むのを止めないでくださいね。
イメージしにくいかもしれませんが、結構私たちの日常生活でも見かける場面が多いです。
例えば交通事故。
「Aさんがわき見運転をしてBさんを轢いてケガをさせた」というケースは不法行為の典型例として、紹介されます。

法律関係の資格のテキストなんかにもよく載っていますよ。
不法行為成立のポイントはいくつかありますが、まずおさえておきたいのが以下の3点です。
- 故意・過失
- 因果関係
- 権利侵害
先ほどの交通事故のケースにあてはめると、
- わき見→故意・過失あり
- 車に轢かれたことによる→因果関係あり
- ケガ→権利侵害
となります。

こんな感じで不法行為問題は私たちの身近に潜んでいますので、知識として持っておくことをおすすめします。
事務員が事故の第一報を受けることも少なくありません。
そういった場合に、この3点を基本に状況を整理しておくと、後々トラブルに発展した際に対策が取りやすくなります。
頭の片隅にでも置いておきましょう。
雇い主も責任を負う|民法715条
2つ目は「使用者責任」です。
これも一応条文を載せておきます。
(使用者等の責任)
e-GOV法令検索より引用
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

「こんな法律があるんだ」くらいにとどめていただき、条文は適当に読み飛ばしていただいて、ぜひ続きを読んでください。
これは先に説明した「不法行為責任」と関係しています。
「いじめ」の例になりますが、書籍の中でこの不法行為と使用者責任の関係を解説している箇所がありますので引用します。
私立学校の場合、教職員は、児童生徒によるいじめその他の加害行為から児童生徒を保護すべき義務があると解されているため(中略)これを怠った場合には、被害者に対し不法行為責任(民法709条)を負い、教職員を雇用している学校は、雇用主として教職員の不法行為について責任を負うことがあります(同法715条/使用者責任)。 P25
「改訂新版 問題を解決する学校法務」より引用
つまり、不法行為責任が成立する場合、雇用主は「雇った側の責任」として使用者責任を負うことがあるというわけです。
個別具体的な中身によるため一概には言えませんが、ここでは、
- 故意・過失により学生生徒等の権利を侵害した教職員は「不法行為責任」
- 不法行為を行った教職員の雇用主には「使用者責任」
というように情報を整理しておきましょう。
契約違反も責任追及の対象|民法415条
最後は「債務不履行責任」です。
例のごとく読まなくても構いませんが、条文を載せておきます。
(債務不履行による損害賠償)
e-GOV法令検索より引用
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
在学「契約」であるため、学生生徒等と学校法人との間にはそれぞれ権利義務が存在します。
従って、学校法人が義務を果たさないことで生じた損害に対し、学生生徒等が損害賠償を請求できるということになるわけです。

不法行為と何が違うの?
そう思われた方もおられるかもしれません。
ただ、これを語り出すと長くなるうえに、私立学校事務員としてはそこまでの知識は必要ないため、ここでは詳しい説明を割愛させていただきます。
とりあえず1点だけ知っておいて損はないと思うポイントだけ紹介しておきます。
それが「立証責任」です。
債務不履行責任の場合、債権者は債務不履行の事実だけを証明すればよいことになっています。
従って、債務者側が「自分に責任はない」ということを立証する責務を負っているわけです。
一方で不法行為責任の場合、故意又は過失について被害者の側で立証しなければなりません。

ここでは債権者=被害者=学生生徒等、債務者=学校法人と置き換えて読んでください。
「誰に落ち度があったか」を証明する責任を負っている人が異なるということは覚えておきましょう。
おまけ|国家賠償法(公立学校との違い)
最後におまけで公立学校の場合も見てみましょう。
なお、公立学校の教職員に責任が認められる場合には、学校設置者である教育委員会が属する地方自治体が法的責任を負うことになります(国家賠償法1条1項)。 P25
「改訂新版 問題を解決する学校法務」より引用

教職員ではなく地方自治体が法的責任を負うというところが意外な点ですね。
このように、私立学校と公立学校との違いを知っておくことで、さらに理解が深まると思います。 何かの知識を増やす際には「違い」に注目するという方法を活用してみましょう。
事務員が知っておくべき学校事故の典型例と実務のポイント
学校で起こり得る事故は多岐にわたりますが、事務員が関わる可能性のある典型例を理解しておくことは重要です。
体育や部活動中の事故は代表的で、設備の老朽化や指導体制の不備が原因となることがあります。
加えて校舎や階段、遊具などの設備の破損による事故も多く、日常的な点検と修繕記録が欠かせません。
施設設備に関する安全管理については別の記事で解説していますので、そちらもご参照ください。
また、外部の会社が校内で作業する際の事故や、行事・校外学習でのトラブルも、事務員が事前準備や契約管理で関わる領域です。
事故が起きた際には、「体制が整っていたか」「記録が残っているか」「説明責任を果たしたか」が重要な判断材料となります。
前述した「故意・過失」がポイントとなってきますので、事務員はその要件を意識しながら丁寧な業務遂行を心がけたり、教員への働きかけをする必要があります。
ちょっとした異変や気づきも報告があがるように、仕組みを整備しておきましょう。

まずは、不法行為責任の要件を意識した記録の作成から取り組んでみましょう。
様式を作成するのも最初の一歩としてはいいと思いますよ。
まとめ
私立学校の安全配慮義務は、教員だけでなく事務員の実務とも深く結びついています。
法的責任を理解することで、日々の業務の意味がより明確になり、「自分の仕事が学校の安全を守っている」という実感を持つことができます。
学校の安全は、事務員の丁寧な記録や小さな気づきによって支えられています。
新人であっても、基本を押さえ、確実に行動することで、学校の安全文化を育てる大切な存在になれます。
そうした基礎知識の習得にこの記事がお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。

