
この記事は以下のような人を対象としています。
・「修学旅行費の着服ってニュースを見かけることがあるが、管理はどうなってるの」と思っている人
また、学校のお金に関わる不正使用のニュースがありました。
千葉県の公立小学校の教頭が、修学旅行費などのお金を不正に引き出して、生活費等に充てていたとのことでした。
こういうニュースを見ると、保護者の方々は「自分のところは大丈夫か」や「学校の管理はどうなっているのだろう」と不安な気持ちになると思います。
そんな保護者の方々に不安を与えないように、学校に勤める事務員としては、修学旅行費の適切な管理方法等を理解しておくべきです。
そこでこの記事では、民間企業にはない学校特有の「修学旅行費」に関する基礎知識をご紹介させていただきます。
内容は以下のとおりです。
- 修学旅行費の会計処理
- 修学旅行費の管理方法
- 修学旅行費にまつわるミスの例
皆さまの知識の習得にお役立ていただければ幸いです。
【科目は預り金】修学旅行費の会計処理
修学旅行費の会計処理は、以下の3つのケースに分かれます。
- お金を徴収したとき
- お金を使ったとき
- いくら預かっているかを示すとき
このうち、「お金を徴収したとき」と「お金を使ったとき」は資金収支計算書、「いくら預かっているかを示すとき」は貸借対照表という計算書類が関わってきます。
それぞれの計算書類については、以下の記事もご参照ください。
基本パターンとしては、以下のような処理になります。
- お金を徴収したとき:「修学旅行費預り金受入収入」
- お金を使ったとき:「修学旅行費預り金支払支出」
- いくら預かっているかを示すとき:「修学旅行費預り金」と「修学旅行費預り資産」

つまり、普通の「預り金」とは区別し、「修学旅行費預り金」として会計処理するということです。
私が今まで勤めてきた学校もこのやり方でした。
こうして修学旅行費専用の処理方法を行うことで、修学旅行費として「いくらお金を集め」「いくら使い」「今いくら残っているか」を明確にすることができます。
その中でも、特に重要となるのが貸借対照表の「修学旅行費預り金」と「修学旅行費預り資産」の関係です。
「修学旅行費預り金」は貸借対照表の「流動負債」に記載されるケースが多いです。
修学旅行費は本来、旅行会社等に保護者が直接支払うべきお金を、便宜上学校が取りまとめて預かっているだけであるため、「負債」として取り扱われます。

保護者から「修学旅行に行けなくなったからお金を返して」と言われたら、返さなければならない「義務」が学校にはあるから「負債」になるとここでは理解しておきましょう。
一方、「修学旅行費預り資産」は貸借対照表の「流動資産」に記載されるケースが多いです。
預かったお金を、学校の日常的な活動で使うお金とは切り分けた「資産」として表示します。
そして、この「修学旅行費預り金」の金額と「修学旅行費預り資産」の金額は一致します。
ここが重要なチェックポイントです。
「預かったお金と同額の資産を、学校はちゃんと保有していますよ」ということをここから読み取るわけです。

「資産」は「貯金」と読み替えて、「預かったお金はちゃんとその分きっちり貯金してますよ」という意味だと思っていただければ問題ありません。
以上が、修学旅行費に関する会計処理の概略になります。
【学校or旅行会社】修学旅行費の管理方法
先述の会計処理は、学校が修学旅行費を徴収する場合のものです。
この会計処理に従って、会計ソフトを使用するなどし、お金の出入りや残高の記録を行います。
あわせて、修学旅行費のみを管理するための預貯金口座も金融機関で開設します。

私の勤め先では、学年ごとに口座を分けて開設し、管理していました。
口座を開設することにより、金融機関から「残高証明書」の発行を受けることができますので、貸借対照表に記載された残高が正しいことを証明することができるわけです。
「会計帳簿」「通帳」「残高証明書」の3つで、保護者等に適切に説明ができるように学校側は努めなければなりません。
ただ、実際のところ保護者から直接説明を求められる機会はほとんどないと思います。
そこで重要となるのが、この修学旅行費とは無関係の第三者から定期的に、残高の確認等のチェックを受ける仕組みを構築することです。

例えば、会計士や監査法人の監査対象として取り扱うという方法が考えられますね。
そして、年に1回は保護者等に対して、修学旅行費の残高等を公開すること。
とにかく多くの人の目に触れる機会を増やすことが、不正防止において重要です。
加えて、修学旅行費を使用する際にも注意が必要です。
具体的には「お金を出すことを許可できる人」と「それ以外の人」とを分ける必要があります。
ここが一緒になっていると、不正が発生しやすくなります。
ただ、規模が小さな学校ではそこまで人手を割くことが難しいということもあるのではないでしょうか。
そんな時の対処法の一つとして、「学校が修学旅行費を徴収しない」というやり方もあります。

冒頭に「先述の会計処理は、学校が修学旅行費を徴収する場合のものです」と言ったのは、こうしたやり方があるためです。
実際、私の今の勤め先では旅行会社が直接、保護者から修学旅行費を徴収しています。
入学の際のオリエンテーション時に、旅行会社の方から保護者に対し説明し、口座引落にて徴収しています。
徴収したお金は直接、旅行会社の口座に入金される仕組みです。
これであれば、学校は何の処理も行う必要がなく、また教職員による不正使用も起こりません。
旅行会社側の不正も考えられないわけではありませんが、小さな学校で担当者が抱え込むよりは、不正が発生する可能性は低いように思っています。
旅行会社にお願いすることにより、追加でコストが発生することもありませんので、1つの方法として検討してみてはいかがでしょうか。
【うっかりしがち】修学旅行費にまつわるミスの例
この修学旅行費の管理で起こりやすいミスの代表例が「残高不一致」です。
転・退学などで修学旅行に行けなくなった場合、すでに預かったお金を返金しなければならないわけですが、この時にミスが発生しがちです。
前述したとおり、修学旅行費を管理するための口座にお金がプールされているので、お金を返金する際もこの口座から返金する必要がありますが、うっかりいつも取引先への支払い等で使っている口座から返金してしまうことがあります。
そうなると、こちらの記録としては「負債(預かったお金を返す義務)はなくなったが、資産(預かっていたお金)はそのまま」という状況になるわけです。

私も何度かやらかしています。
このミスですが、正直返金の段階で防止できる効果的な方法はないと考えています。
その代わり、月次決算を活用することで後追いにはなりますが、対応することは可能です。
月次決算の資料には、月末時点での負債や資産の状況が記載されていますので、その資料を見て「修学旅行費預り金」と「修学旅行費預り資産」の金額が一致することを確認するようにします。
もし不一致が生じていたら、翌月にすぐ修正すればよいのです。
できれば、このチェックをする人と普段預貯金の出し入れをしている人とを分けた方がよいのは言うまでもありません。
ルーティン業務の段階からこうした体制を整備しておくことを心掛けましょう。
まとめ
修学旅行費は、管理の目が行き届きにくくなりがちです。
そうした事情もあり、今回の事件のような横領などの不正につながりやすい傾向があります。
ただ、授業料であろうと修学旅行費であろうと保護者等からすれば、大切なお金には変わりありません。
そうした方々が安心して、お金を預けられるように学校側は管理を徹底する必要があります。
この記事が、そうした管理について考える一助となれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。