
この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・「賞与」に関する会計・社会保険についての知識を身につけたいと考えている人。
6月と言えば賞与が支給される月。
皆さまがお勤めの私立学校もそうではないでしょうか。
私の勤め先も6月が賞与支給月で、教員から「賞与って〇日ですよね」という問い合わせがあったり、「何買おうか」といった声が聞こえてきたりとにわかに賑わっている様子です。
昨今の物価高等の影響もあり、家計のやりくりでいろいろと我慢している方も多いと思います。
そんな方々にとって賞与は、思い切って欲しいものを買う絶好の機会。
ぜひ、日頃の鬱憤を晴らしてもらいたいものです。
さてそんな賞与ですが、ただ単にもらうだけでは私立学校事務員としては不十分。
それに関係する知識も身につけておくことが大切です。
そこでこの記事では、賞与における会計・社会保険関連の知識で、「ちょっと知っておいた方がいいかな」と私が思う「マメ知識」を3つ紹介したいと思います。
その3つは以下のとおりです。
- 賞与引当金
- 賞与に関する社会保険料
- 確認通知書の裏側の記載
最近の学校法人会計基準改正に関わるものから、ちょっとした雑学的なものまで紹介していますので、参考にしていただければと思います。
【①令和7年度改正】賞与引当金
令和7年4月1日から施行された学校法人会計基準(以下、基準)に、以下のような条文があります。
学校法人会計基準 第十一条
e-gov 法令検索より引用
2 退職給与引当金のほか、引当金については、会計年度の末日において、将来の事業活動支出の発生に備えて、その合理的な見積額のうち当該会計年度の負担に属する金額を事業活動支出として繰り入れることにより計上した額を付すものとする。
この条文は改正前の基準にはなく、この改正で新たに追加されたものです。
従来の基準における「引当金」といえば、上述の条文にも記載がある「退職給与引当金」が最もよく知られており、他には「徴収不能引当金」を決算書で見かけることがあるといったところです。
ここに新たに「賞与引当金」というものが加わったと理解していただければ結構です。
【引当金とは】
「そもそも、引当金って何?」
そう思っている人もいると思いますので、簡単に説明します。
引当金には、以下の2つの意味があると理解していただければと思います。
- 将来の損失への備え
- 発生主義に基づく義務の認識
どちらも「正しい財務状況の公表」を目的としています。
それでは、退職給与引当金を例に見てみましょう。
【引当金の例:退職給与引当金】
退職金は金額が大きくなる傾向があるため、いきなりある年度の決算で「退職金〇千万円」と計上すると、収支に大きな影響を与えます。
そこで毎年度末に、所定の計算方法で「退職給与引当金」を計算し、あらかじめ「将来への損失」として認識しておくわけです。
簡単な例で見てみましょう。
- 〇年度末の退職給与引当金:100
- △年度末の退職給与引当金:110
〇年度末の時点で「退職金100」を「将来の損失」として認識していることになります。
そして、△年度は〇年度の1年後だとすると、差額の10だけ△年度の決算で計上します。
こんな感じで、毎年度少しずつ退職金による損失に対して「仮の貯金」を増やしていくようなイメージです。
こうすれば、突然大きな損失を計上しなくて済むわけです。

学校法人を設立して最初の年度には、大きな退職給与引当金が発生するのかもしれませんね。 これまでの引当金がゼロの状態からスタートするわけですので。
そして△年度から1年後の□年度に退職金20が発生したとしても、すでに110を損失として認識しているので、「事業活動収支計算書上は」この20は損失として計上されません。
ただし、実際には退職金として20の金額が学校から出ていっていますので、「資金収支計算書上は」退職金20が計上されます。
ややこしいですが、そういうものとして一旦ご理解いただければと思います。
あわせて〇年度末の退職金というものは、年度末に在籍している教職員が「今まで」勤めてきたことに対するものになります。
つまり、学校法人としては支払う義務が「発生している」ものとも言うことができると考えられます。
こうしたお金の動きとは別に、「義務や権利が発生したタイミング」で処理することを「発生主義」と言うと思っていただければと思います。
発生主義については、こちらの記事もご覧ください。
この発生主義に基づいて、年度末に「うちは教職員に対してこれだけ退職金を払う義務がありますよ」ということを決算書に記載しているわけです。
このように正しい財務状況を公表することで教職員に対し、「ちゃんと皆さんの退職金のことを認識していますよ」ということを伝えることができます。

教職員も安心して働けますよね。
おまけの情報ですが、この引当金に見合ったお金が実際に確保されているかどうかも確認できます。
貸借対照表の「資産の部」に「退職給与引当特定資産」が計上されているかを見るのです。
- 〇年度末の退職給与引当金(負債の部):100
- 〇年度末の退職給与引当特定資産(資産の部):100
このような状況であれば、「退職金100を支払う義務があり、その退職金に充てるための資産を100持っています」という意味になります。
自分の勤め先が、退職金用の資産をどれだけ確保しているかを確認してみましょう。
【賞与引当金とは】
少し本題から逸れましたが、この引当金の一種として「賞与引当金」というものがあると思ってください。
賞与も退職金と同様に大きな金額となるため、
- 年度末に計算しておいて「将来の損失への備え」をしておく
- 「発生主義」に基づいて、すでに発生している分については認識しておく
ということになります。
多くの学校法人では、6月の賞与は「前年度12月から今年度5月」を支給対象期間としていると思われます。
そうなると、「前年度12月から3月」については、年度末時点で「すでに発生している」と考えられます。
そこで、この期間に該当する金額を計算し、「賞与引当金」として計上しましょうというのが趣旨だと思います。
例を挙げると長くなるので省きますが、ここでは一旦、
「学校法人会計基準が改正されて、正しい財務状況を公表するために賞与引当金というものを計上する必要がある」
これだけでも頭の片隅に入れていただければと思います。
【②結構大きい】賞与に関する社会保険料
賞与が支給された際に、多くの方が口にするのが「めちゃくちゃいっぱい引かれている」という言葉。
何が引かれているかと言うと「社会保険料=共済掛金」
確かに結構な金額が、賞与から差し引かれているのです。
しかし、ただ単純に「いっぱい引かれているなぁ」で終わっている人がほとんどだと思います。
私としては私学共済事務に係る人でなくても、自分の社会保険料について理解しておくべきと考えているので、どういう仕組みになっているのか一度見てみることをおすすめします。
これは、私学共済のホームページに「賞与掛金等早見表」というものが掲載されていますので、それを見ることで確認できます。

この早見表は毎年度更新されるということを覚えておきましょう。
これを見ると、賞与の額が1,000円刻みで上がるごとに、掛金の金額も上がるということがわかります。
例えば賞与の額が500,000円だと約70,000円の掛金が差し引かれることになります。
率で言えば14%、大きいですよね。
加えて所得税も引かれるわけですから、約1/5は税金と社会保険料で持っていかれるということになります。
この事実を知っていたらどうにかできるというわけではありませんが、前述のとおり何も知らずにとられるだけというのはよくありません。
- 早見表があること
- 1/5くらいとられること
これだけでも覚えておきましょう。
【③知っていると役立つかも】確認通知書の裏側の記載
賞与が支給されたあと、日本私立学校振興・共済事業団から「確認通知書」というものが届きます。
これは「あなたがもらった賞与の金額はこれです」ということが記載されたものになります。

これの裏面を読んだことがある方はおられますか?
おそらく読んだことがないか、読んだけど意味がわからないという人がほとんどだと推察されます。
この裏面に書かれていることを理解するためのポイントは、「行政不服審査法」と「行政事件訴訟法」の2つの法律です。
私も最初は何が書いてあるのかよくわかっていませんでしたが、行政書士試験の勉強をしたことで、この意味がようやく理解できました。
行政不服審査法とはざっくり言うと、「この書類に書いてあることに文句があったら、〇〇に申し出ることができますよ」ということを定めたものです。
今回の確認書では、「日本私立学校振興・共済事業団共済審査会」という組織に申し出ることができるということが記載されています。
一方、行政事件訴訟法は「文句があったら裁判所に訴えることができますよ」ということを定めたものになります。

つまり、確認書の裏面には「文句があった場合にとることができる手段」が記載されているというわけです。
「どう違うのか」については、ここではとりあえず以下のように理解していただければと思います。
- 行政不服審査法:裁判よりかは時間がかからないが、裁判ほど中立的に判断してもらえない可能性がある。
- 行政事件訴訟法:裁判所という中立な立場の機関が判断するので公平性が高いが、時間がかかる可能性がある。
手元に確認書があれば、一度見てみましょう。
まとめ
賞与に関するマメ知識を3つ紹介したわけですが、どれも知っているからといって賞与の金額が増えたりするものではありません。
しかし、私立学校事務員として働くうえでは理解しておくべきものだと思っています。
「あれってどうなっているんだろう」と小さなことでも興味を持って調べてみる。
そうした姿勢が大事なのではないでしょうか。
この記事が、皆さまが日々担当している業務に対して今よりも興味を持っていただくきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。