
この記事の目的は、以下のとおりです。
・私立学校における「研究費」について、その取扱いなど基礎知識を身につける
「研究費」って皆さんご存じですか。
私立学校の場合、主に大学教授等が自分の専門分野の研究を進めるために活用する資金を指しています。
私立学校、特に私立大学に勤める場合、この「研究費」と関わる機会が少なくありません。
そこでこの記事では、私立大学で勤めることをお考えの方をメインの対象として、「研究費」に関する基礎的なことについて紹介したいと思います。
内容は以下のとおりです。
- 研究費の概要
- 研究費の管理、会計処理
- 研究費にまつわるエピソード
経理・会計的な内容は極力少なくしていますので、お金のことが苦手な方もお読みいただき、知識の習得に役立てていただければ幸いです。
【どんなもの?】研究費の概要
前述しましたとおり、私立学校で「研究費」と言えば、私立大学の教授等が研究活動をするために使用するお金を指すケースがほとんどです。
教授等がこの研究費の支給を受けるためには、大きく分けて2つのルートがあります。
- 国などが募集している研究助成事業に応募し、採用される
- 所属する大学等からの支給を受ける
①の代表例としては「科学研究費助成事業」というものがあります。
詳しい説明は省略しますが、大学等に勤めるにあたってはその名称程度は覚えておいた方がよいでしょう。
略して「科研費」とも呼ばれることがあります。
一方、②の方は特に応募するようなものではなく、その大学等の独自のルールに基づき運用されるものになり、「個人研究費」と呼ばれることが多いです。
②の方が関わる機会が多いと思いますので、以降は②をメインに進めたいと思います。
「特に応募するようなものではなく」と言いましたが、私の以前の勤め先では、研究計画書と研究報告書の提出が義務付けられていました。
これらの提出がなければ、個人研究費は減額または不支給となります。
以前は、大学に所属していれば自動的に支給されていましたが、「どう使う予定か」と「どう使ったか」をきちんと提出する必要があるということでこのようなかたちになりました。

「計画」と「振り返り」を行うことは、個人研究費に関わらず様々な場面において重要なことですからね。
使い道は様々で、研究遂行のためであれば基本的に認められており、取材先への手土産や研究のお手伝いをした学生へのアルバイト代などにも使用されています。
この使途を巡って、教授たちと事務員との小競り合いが発生することがありますが、そうしたエピソードはまた後述します。
支給される金額は、大学等によってまちまちです。
私の以前の勤め先では500,000円ほどが支給されていました。
大学等のルールによっては、繰越ができるところもあるようです。
以上が概要となります。
【民間企業とは違う】研究費の管理、会計処理
続いては、研究費の管理や会計処理についてです。
民間企業にも「研究開発費」というものがありますが、これとは全く別物と考えていただければと思います。
本題から外れるため、「研究開発費」については触れません。興味がある方は独自でお調べください。
まず管理についてです。
これは個人研究費の支給方法によって異なり、以下の2パターンが考えられます。
- 給与として支給
- お金を実際に支給するわけではなく、「使用枠」だけを付与
①の場合、一種の「手当」のような扱いとなるため、基本的に所得とみなされます。
その場合のメリット・デメリットとして考えられる点は以下のとおりです。
<メリット>
・その使途を大学等に報告する手間がなくなる

いちいち、「給与を○○に使った」なんて報告しませんよね。それと同じ考え方です。
<デメリット>
・所得税や住民税等の算定基礎になる
・所得税分を差し引かれて支給されることになるため、本当の支給額より少なくなる

税金や社会保険料などは、所得の金額に比例して増えますので、手取り額に影響が出そうですよね。
また、本当は500,000円もらえるはずの個人研究費も、そこから所得税を差し引かれるので、手元に入ってくる金額は500,000円未満になってしまいます。
②の場合は、所得とはみなされないため、①とはメリットとデメリットが逆転します。
単純に言うと、「税金引かれてもいいから自由に使わせてほしい」か「多少の制限を受けてでも、満額お金を使いたい」と考えるかということになるのではないでしょうか。
個人研究費の税金に関しては、国税庁のホームページにも情報が掲載されています。 参考までにご確認ください。
個人研究費と所得税(国税庁ウェブサイトへのリンク)
②の大学等の方が多いというのが私の認識ですので、以降は②のケースに基づいて話を進めます。
管理の担当には、経理・会計担当部署の事務員がついているケースが多いという印象です。
担当が行う業務には以下のようなものがあります。
- 支給対象者個別に使用状況を記録および残高を管理
- 個人研究費の使途として認められるかどうかの判断
記録・残高管理は、よほど大規模な大学等でなければエクセルが使えれば十分です。
そして、管理を担当するにあたって大事なのは、「個人研究費は大学等のお金であり、個人のお金ではない」という意識を持つこと。

「個人研究費」という名称ですので、「私のお金」という意識で使おうとし、こちらの指示を聞こうとしない人もいます。
「研究のために大学等のお金を使ってもいいですよ。ただし、こちらのルールには従ってくださいね」というのが基本スタンスですので、毅然とした対応をとりましょう。
会計処理は、とにかく使途に応じて適切な勘定科目で処理することに尽きます。
前例を確認するなどして、勘定科目と頻出の支出内容をセットに一覧にまとめておくと、スムーズに処理できますのでおすすめです。
あわせて「これは個人研究費の使途としてNG」というものもまとめておいて、一つのマニュアルとして整備しておけば、引継ぎにも活用できる非常に有益な資料になります。
【不毛な争い】研究費にまつわるエピソード
こうした個人研究費に関わる仕事をしていると、認識の違い等によって生じる大小様々なトラブルは避けられません。
私もいくつか経験してきましたので、そうした中から3つご紹介させていただきます。
- 「備品」を巡る攻防
- 怪しい使途
- 年度末の駆け込み使用
こうした事例をあらかじめ知っておけば、心に免疫ができてストレス軽減につながると思いますので、ご参考にしてください。
①「備品」を巡る攻防
前述したとおり、個人研究費は大学等のお金です。
従って、そのお金で購入した物品は大学等に帰属することになります。
ただし、ファイル一冊や消しゴム一個まで「それは大学のものだ」というわけではありません。
金額による基準を設けて管理しているというケースが一般的です。
ところが、そういったルールがあるにも関わらず、「自分のもの」と認識する教授等もおられます。
これがトラブルに発展するのが、教授等の退職時。
退職して別の大学等へ行く際に、個人研究費で購入したパソコンなどを一緒に持っていこうとするわけです。

先生、個人研究費で買ったパソコンは大学の資産なので置いていってくださいね。

次の勤め先でも研究で使うから、持っていくよ。

だめですよ、大学のものですから。

このパソコンの中のデータがないと研究が続けられないから、パソコンがなかったら困るよ。
こんなやりとりが起こります。
最終的には、ルール厳守でデータをストレージに移してもらって、パソコン本体は回収するに至りましたが、お互いあまりいい気持ちにはなりませんでした。
②怪しい使途
「これ、本当に研究のためか」と思うような使い方も散見されます。
例えばニンテンドーDSを購入した教授がいました。
英語に関する研究をしている教授で、英語学習が内容となっているDSソフトを研究に使いたいとのこと。

「絶対、子どものおもちゃだろう」と思うわけですが、とにかく「研究で使用する」の一点張り。
とりあえず、どのように使用するのか文書を提出させ、しぶしぶ認めることになりました。
他にも、学会に参加する際に使用するカバンを購入しようとする教授もいました。
これはさすがに、衣類などと同じく自分で用意するものとして申請を却下しました。
このように、自分のお小遣い感覚で使おうとする人が必ずいます。
③年度末の駆け込み使用
3月頃になって、突然思い出したように個人研究費を使う人もいます。
あれこれ大量に物品を注文していくのですが、実際に物が納品されても引き取りに来ません。
結局、年度末ぎりぎりに引き取って、研究室に持って帰ることになります。

こちらとしては「今年度中に必要なものではないのでは」と思ってしまいます。
「今年度の個人研究費は、今年度の研究に必要なものに充てる」という考えが、会計上の大原則なわけです。
しかし教授たちは、研究活動は年度ごとに終わるものではなく、ずっと続くものと考えています。
この溝は、一生埋まることがないというのが私の印象です。
まとめ
研究費の適切な管理はとても重要です。
今回は取り上げませんでしたが、研究費にまつわる不正の事件もニュースになることがあります。
事務員としては、そうした不正を防ぐための仕組みづくりを考える必要があります。
それには特に会計の知識は特に必要ありません。
「研究費は学校のお金」という意識を持ち、勤め先のルールに則り、過去の事例を確認しながら管理にあたる。
これを徹底すれば、手始めとしては問題ありません。
今回の記事で、まずはそんな研究費の概略をつかんでいただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。