この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・学校法人会計に関する知識を身につけたいと考えている人。
以前の記事で学校法人の資金収支計算書(活動区分資金収支計算書)についてのクイズを出題しました。
以前の記事でも述べましたが、資金収支計算書(活動区分資金収支計算書)には学校法人の経営状態を表す重要な情報がたくさん掲載されています。
そのため、1回だけでなく複数回にテーマを分けて出題したいと考えています。
そこで今回は、活動区分資金収支計算書の「施設整備等活動による資金収支」をテーマにクイズを作成してみました。
形式はこれまでと同様にビジネス会計検定3級を参考にしています。
問題を全部で5問用意し、全ての問題のあとに今回の出題に関連した情報を紹介しています。
学校法人の教育活動に欠かすことができない「施設設備」
そこに「どこから調達した資金」を「どれだけの金額が投じられているか」を把握することで、その学校法人の将来への姿勢を見ることができるようになります。
学校法人の永続性に関連する非常に重要な区分について、少しでも皆さまの理解を深めるための一助になれば幸いです。
なお、この記事は掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
【第1問】施設整備等活動による資金収支①
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい
(ア)施設整備等活動による資金収支は、学校法人が教育研究活動を行うために必要な施設もしくは設備の整備等に関するお金の出入りを表しており、必ずプラスとなっている状況が望ましい
(イ)「施設設備資金」等の名目で、学生生徒等納付金の1つとして生徒から徴収するものは施設整備等活動による資金収支に含まれる
正解：C
まずは、学校法人会計基準の条文を確認しておきましょう。
第三十九条 活動区分資金収支計算書には、資金収支計算書に記載される資金収入及び資金支出の決算の額を次に掲げる活動ごとに区分して記載するものとする。
一 教育活動
e-GOV法令検索より引用
二 施設若しくは設備の取得又は売却その他これらに類する活動
三 資金調達その他前二号に掲げる活動以外の活動
従って(ア)の前半部分は、条文で定められているとおりといえます。
しかし、「必ずプラスとなっている状況が望ましい」の部分に注意です。
学校法人の本業である教育活動で生み出したお金を施設設備の整備等に充てるというのが、基本的な流れになります。
そのため、必ずしも「施設整備等活動による資金収支」単独でプラスになることが、学校経営上望まれているわけではありません。
「教育活動による資金収支」と「施設整備等活動による資金収支」の合計がプラスであればよいというのが一般的な考えになります。
よって(ア)は誤となります。
また、(イ)は以前の記事で紹介したとおり、学生生徒等納付金収入に含まれるものについては、「施設」などの名称がついていても「教育活動による資金収支」に含めます。
よって誤となります。
具体的に「〇〇校舎建設のため」のような集め方はしませんので、施設整備等活動には含まれないということです。
【第2問】施設整備等活動による資金収支②
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい。
(ア)寄付者の意思が明確でない場合の寄付金収入は、合理的な基準に基づき、「教育活動による資金収支」と「施設整備等活動による資金収支」に案分して計上する
(イ)活動区分資金収支計算書における「施設整備等活動による資金収支」の「施設設備寄付金収入」は、事業活動収支計算書では、「特別収支」の「その他の特別収入」に計上する
正解：A
(ア)については、「施設設備拡充等のために」というように、寄付者の意思が明確な寄付金収入のみを「施設整備等活動による資金収支」に計上することとされています。
そのため、寄付者の意思が明確でない場合は、「施設整備等活動による資金収支」ではなく「教育活動による資金収支」として計上することとなります。
従って、正解は誤となります。
また、(イ)については、設問どおりの内容であるため、正解は正となります。
恒常的に入ってくるような性質のものではありませんので、「特別な収入」という扱いをするわけですね。
これらについては、以前の記事でも紹介しました、日本公認会計士協会が公表している実務指針で解説されていますので、そちらもあわせてご参照いただければと思います。
学校法人委員会実務指針第45号
(日本公認会計士協会ホームページへのリンク)
【第3問】施設整備等活動による資金収支③
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい。
(ア)立大学等経常費補助金は、図書など設備も補助対象となっているため、金額に応じて「教育活動による資金収支」と「施設整備等活動による資金収支」に案分して計上する
(イ)私立大学等経常費補助金のうち特別補助において、施設設備の購入に充てられることが想定されるものについては、「施設整備等活動による資金収支」に計上する
正解：C
例えば、私立大学経常費補助金は「教育研究経常費」として以下のような支出を補助対象としています。
- 1 個又は 1 組の価格が 500 万円未満の機械、器具及び備品
- 図書支出
- その他教育研究に直接必要な経常的経費
このように備品や図書などの設備関係支出の一部が補助対象となっていますが、案分の必要はなく、全額を「教育活動による資金収支」に計上することとされています。
よって正解は誤となります。
私立大学等経常費補助金の趣旨としては、特定の施設設備の整備等への補助よりも、教育研究活動全般への補助という意味合いが強いので、「教育活動」の方に計上されると理解しましょう。
この考え方は、都道府県等による高等学校などへの運営費の補助金にも適用されます。
また(イ)も同様の考え方により、「教育活動による資金収支」に計上されます。
よって正解は誤となります。
この2点についても、先述の日本公認会計士協会の実務指針で解説されていますので、ご参照ください。
あわせて、私立大学等経常費補助金の取扱要領・配分基準もチェックしておくことをおすすめします。
私立大学等経常費補助金取扱要領・配分基準
(日本公認会計士協会ホームページへのリンク)
【第4問】施設整備等活動による資金収支④
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい。
(ア)施設設備整備を目的として受け入れた寄付金を原資にして購入したものが、学校法人の経理規程上、固定資産計上基準額に満たなかった場合でも、当該寄付金は「施設整備等活動による資金収支」に計上する
(イ)特定資産の取崩収入および繰入支出は財務活動に該当するため、目的に関わらず「その他の活動による資金収支」に計上する
正解：B
(ア)について少し補足します。
例えば、生徒が使用するパソコンを整備するために150万円の寄付を受け入れたとします。
その後、その寄付金を原資にして1台75,000円のパソコンを20台購入しました。
この学校法人の固定資産計上基準額が仮に100,000円だとすると、当該パソコンは固定資産(≒設備)として扱われず、消耗品費など教育研究経費に計上されます。
そうなると、「施設設備等活動じゃない」となってしまうわけです。
しかし、このようなケースであっても、寄付者の意思に基づき、「施設整備等活動による資金収支」に計上することになります。
よって正解は正となります。
(イ)も具体例を挙げます。
特定資産の取崩収入や繰入支出は、人間に例えると貯金の「積立」と「引出」のようなものです。その貯金には何かしら目的があると思います。
皆さんも「マイホーム貯金」とか「子どもの教育費貯金」なんかをされたりしますよね。
この目的によって、「施設整備等活動による資金収支」や「その他の活動による資金収支」にそれぞれ計上することとされています。
先ほどの「マイホーム貯金」であれば、「施設整備等活動による資金収支」に該当するわけです。
従って、正解は誤となります。
【第5問】施設整備等活動による資金収支の項目
以下の情報により、施設整備等活動による資金収入に該当するものの金額を合計し、正しい数値を選びなさい。
利子補給を目的とした補助金収入200 借入金等収入200 特別寄付金収入(目的不明)100
手数料収入100 第２号基本金引当特定資産取崩収入500
正解：C
問題文で挙げたものを分類すると以下のようになります。
教育活動による資金収入：手数料収入、特別寄付金収入(目的不明)
施設整備等活動による資金収入：利子補給を目的とした補助金収入、第２号基本金引当特定資産取崩収入
その他の活動による収入：借入金等収入
よって施設整備等活動収入に該当するものを合計した結果は700となります。
第２号基本金については、学校法人会計基準の条文を確認しておきましょう。
学校法人会計基準 第十三条
e-GOV法令検索より引用
二 学校法人が新たな学校の設置又は既設の学校の規模の拡大若しくは教育の充実向上のために将来取得する固定資産の取得に充てる金銭その他の資産の額
このように「固定資産の取得」が目的であるため、第2号基本金に関連するものは「施設整備等活動による資金収支」として取り扱われます。
【理解度アップ】お金の出どころにも注目
「教育活動による資金収支」では収支差額に注目することをおすすめしましたが、「施設整備等活動による資金収支」では中身の方が重要と私は考えています。
特に収入の方は内容をチェックしておきたいところです。
- 寄付金収入、補助金収入：外部からのお金
- 特定資産取崩収入：内部からのお金
このように切り分けできます。
施設設備の整備には大きなお金が必要な場合があります。
その整備に必要なお金をどこから調達しているかということが、この部分を見ることである程度把握できるということです。
支出額に対して、
- 寄付金や補助金をうまく獲得できているか
- 今までに貯めたお金で賄えているか
- 寄付金や貯金ではなく、今年度の教育活動で創出したお金を充てているか
といった見方をすることができます。
その学校の施設設備整備に対する計画性などが表れる部分だと思っていますので、チェックしてみてはいかがでしょうか。
まとめ
冒頭でも述べましたが、施設設備は学校法人の教育活動に欠かすことができないものです。
その施設設備の整備に十分なお金を投じられているか。
そこを把握できるようになりましょう。
また、複数年比較することで、その学校の計画性も確認することができると思います。
あわせて確認してみることをおすすめします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
