
この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・学校法人会計に関する知識を身につけたいと考えている人。
以前の記事で学校法人の資金収支計算書(活動区分資金収支計算書)についてのクイズを出題しました。
以前の記事でも述べましたが、資金収支計算書(活動区分資金収支計算書)には学校法人の経営状態を表す重要な情報がたくさん掲載されています。
そのため、1回だけでなく複数回にテーマを分けて出題したいと考えています。
そこで今回は、活動区分資金収支計算書の「教育活動による資金収支」をテーマにクイズを作成してみました。
形式はこれまでと同様にビジネス会計検定3級を参考にしています。
問題を全部で5問用意し、全ての問題のあとに今回の出題に関連した情報を紹介しています。
学校法人のメインの活動である「教育活動」でキャッシュを創出できているかどうか。
その点を中心に見ることができるようになれば、経営状態の大部分を把握できるようになると考えています。
少しでも皆さまの理解を深めるための一助になれば幸いです。
なお、この記事は掲載日時点の法令等に基づいて執筆しております。
【第1問】教育活動による資金収支①
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい
(ア)教育活動による資金収支は、学校法人における本業である「教育活動」でキャッシュフローが生み出せているかを示しており、継続的にプラスとなっている状況が望ましい
(イ)教育に関わる施設設備を充実させるための借入金収入やその借入金の返済支出は、教育活動による資金収支に含まれる
正解:B
教育活動による資金収支は、その名のとおり、学校法人の本業である「教育活動」に関するお金の出入りをまとめた部分になります。
従って、この収支が継続的にプラスであれば、本業でお金を生み出せているといえます。
その生み出したお金を教育環境のさらなる充実等に充てることが、学校法人の永続的な発展につながるわけです。
よって(ア)は正となります。
一方(イ)は「教育に関わる」となっていますが、学校法人が教育活動を行った結果として出入りしたお金ではありませんので、教育活動による資金収支には含まれません。
よって誤となります。
- 授業を実施するために支払った人件費や教材の購入費等
- その授業の対価として徴収した授業料等
おおまかですが、こうしたものが「教育活動による資金収支」に含まれるとここでは理解していただければと思います。

授業を行ったからお金が借りられたわけではないので「教育活動」には含まれないということですね。
【第2問】教育活動による資金収支②
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい。
(ア)食堂・売店などに係る事業の収入である「補助活動収入」は、教育活動による資金収支に含まれない
(イ)学校法人が病院などの附属機関を設置している場合、その附属機関からの収入は教育活動による資金収支に含まれない
正解:C
(ア)については、基本的に「教育活動に付随する事業」として位置付けられています。
従って、広い意味で「教育活動による資金収支」に含まれるかたちになっています。
よって、正解は正です。
同様の考え方で(イ)も「教育活動による資金収支」に含まれます。
よって、こちらも正解は正です。
- 食堂や売店は主に学生生徒等の「内部の人」が対象
- 病院などは世の中の人全般といった「外部の人」が対象
こうした人たちへ学校法人として、サービスの提供を行ったことによって生じたお金の出入りになります。

後者の方は、学校法人が教育研究活動で得た知見等を「外部の人」に提供するという意味で、広く「教育活動」とされているといったイメージです。
ただ、食堂や売店のために要する経費は「管理経費」に分類されるということもおさえておく必要があります。
管理経費についてはこちらの記事もご参照ください。
ややこしい部分ですが、しっかりと違いを整理しておきましょう。
【第3問】教育活動による資金収支③
次の文章について、正誤の組み合わせとして正しいものを選びなさい。
(ア)学生生徒等納付金収入のうち、「施設拡充費」などの名目で徴収しているものについては、教育活動による資金収支には含まれない
(イ)補助金収入のうち、利子補給を目的とした補助金については、教育活動による資金収支には含まれない
正解:A
学生生徒等納付金収入に含まれるものについては、「施設」などの名称がついていても教育活動による資金収支に含めます。
よって正解は誤となります。
一方(イ)は、校舎など施設設備整備に係る融資から生じる支払利息に対する補助金になります。
そういった補助金の交付目的を勘案して、教育活動による資金収支には含めません。
よって正解は正となります。
この2点については、日本公認会計士協会が実務指針として公表していますので、詳しくはそちらをご参照いただければと思います。
学校法人委員会実務指針第45号
(日本公認会計士協会ホームページへのリンク)
【第4問】教育活動による資金収支の項目①
以下の情報により、教育活動による資金収入に該当するものの金額を合計し、正しい数値を選びなさい。
学生生徒等納付金収入500 収益事業収入150 受取利息・配当金収入100 現物寄付金50
手数料収入200
正解:C
問題文で挙げたものを分類すると以下のようになります。
教育活動による資金収入:学生生徒等納付金収入、手数料収入
その他の活動による収入:収益事業収入、受取利息・配当金収入
事業活動収支計算書特有の収入:現物寄付金
よって教育活動による収入に該当するものを合計した結果は700となります。
こちらについては、活動区分資金収支計算書の様式を確認しておきましょう。
活動区分資金収支計算書
(e-GOV法令検索へのリンク)

基本となる勘定科目ばかりなので、しっかり覚えておきましょう。
【第5問】教育活動による資金収支の項目②
以下の情報により、教育活動による資金収入に該当するものの金額を合計し、正しい数値を選びなさい。
経常費等補助金収入300 借入金等収入100 特別寄付金収入(奨学基金の拡充目的)100
附属事業収入150 科学研究費補助金収入150
正解:B
問題文で挙げたものを分類すると以下のようになります。
教育活動による資金収入:経常費等補助金収入、特別寄付金収入(奨学基金の拡充目的)、附属事業収入
その他の活動による収入:借入金等収入
該当科目なし:科学研究費補助金収入
よって教育活動収入に該当するものを合計した結果は550となります。
前述した公認会計士協会の実務指針にも取り上げられていますが、経常費等補助金収入のなかには、図書などの設備に対する補助金も含まれています。
しかし、その名称や目的等から勘案して、すべて教育活動による資金収入として取り扱うこととされています。
また、例えば「新校舎建設資金」を集めることを目的に募集した寄付金を受け入れる場合は、施設整備等活動による資金収入となります。
同じ「寄付金」でも目的などで取り扱いが異なることに注意しましょう。

ちなみに「科学研究費補助金収入」という科目は基本的にありませんが、科学研究費補助金を受け入れる場合には「預り金」という科目を使用します。
【理解度アップ】経営判断指標の活用とキャッシュへの注目
私学事業団のホームページに「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分」という資料が掲載されています。
「経営判断指標」
(私学事業団ホームページへのリンク)
フローチャートの形式になっており、設問に答えることで自法人の経営状態がどのような状態に位置しているかを把握できるツールになっています。
このフローチャートですが、「教育活動資金収支差額が 3か年のうち2か年以上赤字である」という設問から始まります。
このことからも、それだけ本業でキャッシュフローを生み出せているかを把握できる「教育活動資金収支差額」が重要であるということが理解できると思います。

企業も学校法人も資金ショートで経営が破綻してしまいますからね。
だから、私は学校法人の計算書類を見る際は、この「教育活動資金収支差額」と貸借対照表の「流動資産と流動負債のバランス」を真っ先にチェックします。
また、前述のフローチャートの設問にはもう一つ大切な文言が記載されています。
それは「3か年のうち2か年以上」という部分。
単年度だけで判断しないということです。
- 教育活動資金収支差額
- 流動資産と流動負債のバランス
キャッシュのフローとストックの状態を最低3か年分チェックする。
学校法人の経営状態を把握する方法としておすすめしたい点です。
なお、「定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分」自体も有用なツールです。
学校法人の経営を判断するために知っておくべき情報がまとまっていますので、まずは読んでみるところから始めてはいかがでしょうか。
まとめ
この記事を執筆している時点でも、ある大学・短期大学が募集停止するといったニュースが報じられていました。
残念ながら当該大学・短期大学単独の財務情報は入手できませんでしたが、おそらくはこの記事のテーマである「教育活動による資金収支」の状況は芳しくなかったのではと推察されます。
前述のとおり、結局、学校法人が活動を継続させるためには資金が必要です。
よく、「企業にとってのお金は、人間で言う血液」といった例えを耳にしますが、まさにそのとおりだと思います。
その大切な「血液=お金」は教育活動で生み出す必要があります。
そのことを計算書類から読み取れるように知識を身につけておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。



