

この記事は以下のような人を対象としています。
・「会計知識って覚える範囲が広いけど、結局何を理解しておくべきなの?」と思っている人
「社会人として働くうえで、会計の知識は持っておいた方がいいよ」と言われたことがある方、おられるのではないでしょうか。
そう言われてとりあえず、簿記の勉強を始めてみたという話をよく耳にします。
しかし、勉強してもそれが結局自分の業務にどう関係しているのかピンとこず、いまいちその知識の活かし方がわからないという話も同じくらいよく聞きます。
そんな状況を踏まえてこの記事では、経理・会計担当以外の方が、経理・会計担当の方とやりとりするうえで理解しておくべきことを解説した書籍を紹介します。
その書籍で解説している「ここだけは理解しておくべき」ポイントは以下の3つです。
- 発生主義
- 費用収益対応の原則
- 保守主義
私も実際に書籍を読んでみて、「確かに、このことは経理・会計担当以外の人にも知っていてほしい」と思うような内容でした。
私がそう思ったきっかけになるエピソードも踏まえながら紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。
書籍の紹介
書籍名:9割捨てるとサクッとわかる会計入門
著者名:マスカワシゲル
出版社:フォレスト出版
発売日:2025年6月2日
【理解ポイント①】発生主義
「発生主義」
あまり聞き覚えのない言葉、という印象の人が多いのではないでしょうか。
書籍にこの言葉を解説している個所がありますので引用します。
「9割捨てるとサクッとわかる会計入門」より引用
- 発生主義とは、「収益は費用の発生を現金の収入や支出とは関係なく計上しなさいよ」ということです。 P39
これとは別に「現金主義」という用語もあります。
この言葉についても、書籍で解説されていますので以下に引用します。
「9割捨てるとサクッとわかる会計入門」より引用
- お金の出入りで収益・費用を計上します。お金をもらったら収益を計上、お金を支払ったら費用を計上します。 P40
私たち日ごろ目にする「家計簿」なんかは「現金主義」で作成されていると思いますので、一般的にはこちらの方がなじみ深いという印象です。
学校においても、収入のメインである学納金は基本的に「現金主義」で処理するケースがほとんど。
そのことが、一層この「発生主義」を理解しにくくしている要因になっているようにも思います。

しかしこの原則、経理・会計担当以外の人も含めて理解しておくべきとても大切なルールなんです。
それは特に補助金に関わるところで重要になります。
実際に私が経験したケースをご紹介します。
【事例】保守費用とウィルス対策ソフト
図書室のパソコンを入れ替える計画があったときのことです。
入れ替えには結構な費用が発生するため、補助金の申請も同時に計画していました。
それらの計画を進める中で、図書室の担当者はパソコンの納品会社から以下のような提案を受けます。

パソコンの保守契約期間とウィルス対策ソフトのライセンス期間を3年にすると、1年契約にするよりお得ですよ。
例えば1年契約だと10,000円の費用が、3年契約だと総額27,000円、つまり1年あたりに直すと9,000円になりお得だというわけです。
その担当者は「確かに」と思い、3年契約で計画を進めようとしました。
ところが、いざ補助金申請をする段階になって申請書類を見た経理・会計担当者は、図書室の担当者を呼んで注意をします。

保守費とライセンス料は3年総額ではなく、1年分を申請してください。
図書室の担当者は理解できず、

今年全額支払うのになぜ、申請は1年分だけなんですか
と不満げに質問します。
このやりとりは結局1年分の金額に修正することで落ち着いたわけですが、この意識の違いがどこから発生したのか。
それは「発生主義」を理解しているかどうかという点になります。
補助金は基本的に「申請した年度」にかかる費用に対して交付されるものです。
そのため、3年契約だと2年目以降の費用はまだ「発生」していないため補助対象外となります。
これをうっかり3年分全て補助金申請していると、場合によってはあとから「補助金の不正受給」として取り扱われる可能性が発生するわけです。
この例のように、経理・会計担当以外の人でも「発生主義」を理解しておくべきケースがありますので、覚えておきましょう。
【理解ポイント②】費用収益対応の原則

漢字ばかり並んでいると思って読み飛ばさず、少し我慢してください。
これも言葉だけ見ても意味が分かりにくいと思いますので、書籍の解説を引用します。
「9割捨てるとサクッとわかる会計入門」より引用
- 収益に対応する費用を同じ期間内に計上する原則 P203
別の言い方をすれば、何か収益を上げるためには、それに対応する費用が発生するはずなので、それらをセットで計上しましょうという原則になります。
物を作っている会社であれば、想像しやすいと思います。
例えば10,000円の商品が売れた場合、その商品の材料費などが8,000円であれば、この費用も売れたタイミングで計上するということです。
学校の場合、商品のように具体的に収益と費用が結びつくケースが少ないと思いますので、理解が難しいかもしれません。
しかし、自分の仕事がどのように学校の経営に影響を与えているかを理解するために重要な原則なので、覚えておく必要があります。
具体的には、「収益と費用が対応している」という部分が重要となってきますので、そのことをイメージで理解していただくために、私が経験したケースを紹介させていただきます。
【事例】志願者一人の収益と費用
ある事務員が遠方に出張することになりました。
出張の目的は入試広報。
生徒対象に学校のアピールをしに行くわけです。
出張費に約30,000円必要でしたが、その費用についてその人はこう言います。

志願者一人確保すれば、もとはとれるな。
入学試験の検定料が30,000円でしたので、その人はそう思ったのでしょう。
ところがそんな簡単な話ではありません。
検定料は30,000円ですが、その出願処理などに費用が発生するわけです。
仮に費用が27,000円だとすると、差額は3,000円。
つまり30,000円の出張を1回しようと思うと、少なくとも10人分の検定料を集めなければ、そのお金を捻出することはできないということになります。
「収益と費用が対応している」ということは「収益と費用の差額を意識する」とも言い換えられると私は考えています。
そして、この「差額」という考え方は、決算書から経営判断する際にも用いられています。
例としては、日本私立学校振興・共済事業団が学校法人の財務状況を把握する際に用いる「事業活動収支差額比率」も文字どおり「差額」に注目した経営指標です。
事業活動収支差額比率については、こちらの記事で解説していますのでご参照ください。

いくらたくさんお金が入ってきても、手元に残すことを考えなければ永続的な経営は難しいですよね。
経理・会計担当以外の人も、「収益には対応する費用があるということ」と、そこから発生する「差額」を意識しながら日々のお金の使い方を見直してみましょう。
【理解ポイント③】保守主義
これも書籍の解説を引用します。
「9割捨てるとサクッとわかる会計入門」より引用
- 損失を可能な限り早めに計上し、収益は確定するまで計上しない原則 P204
永続的な経営をするためには「不測の事態」に備えることも必要です。
もちろんそれは役員だけでなく、私たち事務員や教員にも求められていると思います。
金額の大小にかかわらず、「入ってくるはずのお金が入ってこない」などという事態は避けたいですが、どうしてもそうした「不測の事態」は発生してしまうものです。
事務員のケースで一番身近な例としては、学納金や貸与奨学金の未納が「不測の事態」になると考えられます。
そのような事態に備えて日ごろから私たち事務員は、この「保守主義」の原則を念頭に置いた対応が求められるわけです。
しかし、これも経理・会計担当とそれ以外の人との間の意識の違いが大きく表れる部分。
例えばこんなケースがありましたので紹介します。
【事例】学納金の督促記録
高校で、学費未納のまま年度末に退学した生徒がいました。
こういった場合、学校としては年度を越えても督促し続けるのが基本です。
そのため、学校法人本部の事務員は、当然高校の学納金担当が督促の記録をつけているものと思っていました。
その後、また年度末をむかえた際に、本部の事務員は高校の学納金担当者に督促の状況を確認しました。
前述のとおり、「保守主義」に基づいて損失を早めに計上するためです。
ここでいう「損失」は未納の学納金がこのまま納付されないということを意味します。

その「納付されないかも」という可能性を探るために、督促状況を確認したというわけですね。
ところが、この学納金担当者は「保守主義」を理解しておらず、督促状況をきちんと記録していませんでした。
これでは会計的な処理をするための判断材料がないため、本部の事務員は困るわけです。
しかし、学納金担当者の方はその重要性がわからないため、本部の事務員が困る理由が理解できません。
結局、学納金担当者は年度当初から郵便の記録などを遡って確認し、イチから記録を作成することになりました。

会計士の監査で、滞留している債権(この場合だと、学納金をもらう権利だと思ってください)は必ずチェックされますので、何も処理しないわけにはいかないのです。
そしてその処理のためには、それなりの客観的な根拠が必要となります。
このように、特に高校事務室に勤務する事務員は、自身が経理・会計担当でなくても、この「保守主義」という会計上のルールを理解して業務を遂行する必要があります。
ぜひとも、覚えておきましょう。
まとめ
今回紹介しました会計知識は、どれも経理・会計担当以外の方も理解しておくべき原則・ルールです。
そのことをイメージしやすくするために、私の周りで実際にあった事例も紹介いたしました。
簿記では民間企業のケースに基づき、これらの会計知識を学ぶため、イメージしにくい部分もあるかと思いますが、ここで紹介した学校現場での事例をぜひ参考にしていただければと思います。
そしてこれら3つの会計知識には、ややこしい数字はほとんど出てきませんでした。
「会計」と聞くと「数字」をイメージして、苦手意識を持つ方も多いかもしれませんが、こうした「数字以外」のルールなどが重要なケースもあります。
反射的に拒否反応を起こさずに、会計について学んでみることをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。