
この記事は以下のような人を対象としています。
・私立学校事務員の「補助金業務」について理解を深めたいと思っている人。
以前の記事で「学納金業務」について解説しました。
今回は私立学校事務員の仕事の一つ「補助金業務」についてです。
この業務も学納金業務と同様に、新人が担当する傾向が高い。
私の前の勤め先では、補助金申請の窓口となる部署に配属となった新人は、まずこの業務を担当していました。
学校法人にとっては、学納金に次いで2番目に大きな収入源であり、非常に重要度が高いものです。
国や地方公共団体からそうした補助金を受けているというところが、学校法人の特徴でもあるので、新入職員の方にその現状を理解してもらうために経験させていたのかもしれません。
そうした状況を勘案すると、この業務は学校法人で勤めるにあたって基本となる知識等を習得するための業務ではないかと私自身感じています。
そこで今回の記事では、この補助金業務で身につけられる3つの力について紹介したいと思います。
その3つとは以下のとおりです。
- 他部署との交渉力
- 世の中の動向を把握する力
- スケジュール管理力
これからこの業務の担当になる人や部下に担当させようと考えて人などの参考になれば幸いです。
【他部署との交渉力】
補助金の申請にあたっては、学校全体の部署を巻き込む必要があります。
大学等に交付される「私立大学等経常費補助金」の申請を例とすると、
- 教職員関係:人事課
- 学生数関係:教務課
- 決算関係:財務課
などです。
あくまで一部を紹介しただけですので、参考程度に見ていただければと思います。

なお、部署の名称は以前の私の勤め先のものですので、学校によって異なる場合があることはご了承ください。
こうした部署に対し、期日までに資料を作成し、提出するように依頼をしていきます。
学生数や教員数などに基づいて交付される補助金は、毎年同時期の同様の依頼があるため、担当部署も準備をしており、依頼をしてもそれほど嫌な顔をされることはありません。

それでも笑顔で迎えてくれることはありませんが。
一方、そうではない補助金もあります。
何かしらの取組みに対して、補助金を交付するタイプのものです。
私の中でその最たるものとして思い浮かぶのが、「私立大学等改革総合支援事業」というものです。
文部科学省のホームページに事業概要について掲載されていますので、以下に引用します。
未来を支える人材を育む特色ある教育研究の推進や高度研究を実現する体制・環境の構築、地域社会への貢献、社会課題を解決する研究開発・社会実装の推進など、自らの特色・強みや役割の明確化・伸長に向けた改革に全学的・組織的に取り組む大学等を重点的に支援する。
文部科学省ホームページより引用

国が「日本の学校教育の発展のためにこんなことに取り組んでほしいなぁ」と思っていることを、実際に行っている私立大学等に対し補助金を交付します、というものだと私は理解しています。
「こんなことしていますか」「あんなことしていますか」といった設問があり、各設問について配点が設定されている形式になっています。
そして、得点が高い学校が採択されるというわけです。
この設問への対応が担当者を悩ませます。
なぜなら、毎年要件等が変わるからです。

昨年度はこの内容で得点できたのに、今年度はゼロ点だ。
なんてことがざらに発生します。
ここで調整力の見せ所。
なんとか要件を満たすように、担当部署と粘り強くやりとりをするわけです。
もちろん相手側とすれば、要件を満たすために業務の負担が増える可能性がありますので、簡単には承諾してくれません。
そこを様々な関係者を巻き込むなどしながら、進めていくことになります。

こんなやりとりを経て申請した補助金が採択されたときの達成感はとても大きいです。
この「私立大学等改革総合支援事業」ほどではありませんが、高校でも同様の補助金があり、その都度教員にお願いしに行きます。

先生この行事、全校生徒対象にしたら補助金対象になるんですけど。

え~、ちょっと各学年と調整してみるけど・・・。
みたいな感じです。
決していい顔はされません。
日頃からの関係作りがポイントになってきますので、普段から他部署の方と積極的にコミュニケーションをとるように心がけましょう。
また新入職員にとっては、各部署がどんな業務をしているかやその部署でのキーマンなんかも把握できるというメリットもありますので、交渉力とあわせて意識してほしいと思います。
【世の中の動向を把握する力】
先述しましたが、補助金には「日本の学校教育の発展のためにこんなことに取り組んでほしいなぁ」という国の思惑が反映されていると私は考えています。
「耐震化の推進」あたりはその最たるものではないでしょうか。
これは国に限らず、例えば都道府県が交付する補助金でも同様のことが言えると思います。
その視点で補助金業務にあたると、

今、行政はこういうことに力を入れたいのか。
という気づきにつながるというのが私の実感です。
例えば、私が今勤めている高校を所管する都道府県からは、新たに外国人入学生の受入に関する補助項目を追加する旨の連絡がありました。
このことから、

うちの都道府県は外国人生徒を増やしてグローバル化や多様な生徒の受入を推進したいのかな。
ということが推察されます。
こうした動向は、教育現場で働く私立学校事務員として把握しておくべきものだと私は思っています。
さらにこれを応用すると、都道府県や市町村の計画を見て、「これからどんなことに注力したいか」を予測できるようになります。
そうなると、補助金が募集されていなくても、

うちの学校の取組みが、そちらが計画しているこの事業を推進するのに役立つと思うんですが、補助していただけないでしょうか。
といったアプローチが可能になるわけです。
私はまだ成功したことはありませんが、以前の勤め先の上司はこの方法でうまく補助金を獲得できたと言っていました。
もちろん、特定の学校にだけ補助金を交付すると公平性の観点から問題視されかねないため、様々な条件はついたようです。
ここまでのレベルに達するには経験や知識が必要となりますが、その第一歩としてどんな取組みに補助金が交付されているかは担当者としてチェックしておきましょう。
【スケジュール管理力】
補助金はほぼ毎年同時期に申請依頼が学校に届きます。
ということは、事前準備がしやすいというわけです。
この傾向を把握して、カレンダーやスケジュールソフトなどを活用し、先手で事を進めることが補助金業務担当者として重要となってきます。
時期によっては、複数の申請が同じタイミングに重なることがあり、フライングでスタートしておかないと業務が大炎上することも。

私は担当して1年目にスケジュールが把握しきれていなかったため、炎上を経験しました。
サポートしてくれた当時の上司や担当部署には感謝しています。
逆に、回答を依頼する部署に前もって声をかけておいたり、依頼が来る前から資料を集めておくなど先回りして準備しておくとスムーズに仕事を進めることができます。
私の中でこのスケジュール管理力は、私立学校事務員にとって最も必要とされる場面が多いものという認識です。
それは年間でやるべきことがほとんど固定化されているため。
補助金や経理業務に限らず、これは言えることです。
なかでも特にこの補助金業務は、スケジュール管理力を延ばすのに適しているように思います。

私は経理業務の経験から、自分にはある程度スケジュール管理力は身についているものと思っていましたが、補助金の申請業務を担当してその認識が甘かったことを実感しました。
やはり、前述のとおり他部署とのやりとりが発生するという点が、一人で完結することが多い経理業務と比べてよりスケジュールに対して厳しい姿勢で臨むことを求めているという印象です。
自分ではどうすることもできない「他人の動き」を理解したうえで、スケジュールに基づき円滑に業務を進められる力をこの補助金業務を通じて身につけましょう。
まとめ
冒頭に述べましたとおり、補助金は学校法人にとって重要な収入源。
そんな補助金を申請するための業務は、まさに学校経営を支えるものです。
それに加えて、今回の記事で紹介したような私立学校事務員として働くうえで大切な3つの力を養成する効果も期待できます。
もし担当に就いた際には、こうした点を意識してほしいと思います。
この記事の内容が、仕事の理解を深めることにつながれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。