
この記事は以下のような人を対象としています。
・「授業料支援制度の所得制限の撤廃の話があったけど、結局、2025年度から何が変わったんだろうか」と思っている人。
令和7年(2025年)の通常国会の際に話題になりました「所得制限の撤廃」。
世帯の所得に関係なく、国から授業料支援を受けられるよう制度の見直しが行われました。
その結果、2025年度において私立高校に対する「高等学校等就学支援金」制度に変更が生じています。
その「高等学校等就学支援金」以外にも「所得」に関して、今年度から改正された制度があります。
それが「高等教育の修学支援新制度」です。
この2つの制度、名称も似ているうえに、どちらも2025年度から「所得」に関する部分で制度変更があったため、生徒の保護者だけでなく事務員でも混乱している様子です。
そこでこの記事では、情報整理を主な目的として前述の2つの制度について、変更点も含めて解説したいと思います。
なお、内容は2025年4月現在のものとなっています。
「2025年度から何が変わったか」を確認する一助になれば幸いです。
【こちらがメイン】高等学校等就学支援金の改正
私立高校にとっては、こちらの制度改正の影響が大きいと思います。
通常国会でメインとなっていたのも、この改正だったと記憶しています。
従来は、年収約910万円未満の世帯がこの支援金の対象でした。
それが2025年度からは、年収約910万円「以上」の世帯も対象となり、対象者の範囲が広がったというのが改正の概要です。
ただし、厳密に言うと制度が変わったのではなく、従来からある制度に加えて、2025年度限りの「高校生等臨時支援金」という制度が整備されたのです。
この「高校生等臨時支援金」の対象となるのが「年収約910万円以上の世帯」であり、これにより、私立高校に通う生徒は所得の制限なく、なにかしらの支援が受けられるようになったということです。
表でまとめると以下のようになります。
高等学校等就学支援金 | 高校生等臨時支援金 | |
所得基準 | 年収約910万円未満 | 年収約910万円以上 |
支給金額 | 118,800円/年~ | 118,800円/年 |
注意点としては、後述する「高等教育の修学支援新制度」の改正ポイントである「多子世帯」はこの「高校生等臨時支援金」では全く関係ないという点です。

このあたりがわかりにくいようで、保護者から「うちの家、子ども3人以上いるから、所得制限関係ないんですよね」といった問い合わせが学校にかかってきます。
整理すると、以下の3点をおさえておけば問題ないと思います。
- 2025年度から「高校生等臨時支援金」が創設(2025年度限り)
- 「高校生等臨時支援金」は、所得制限により従来「高等学校等就学支援金」の対象とならなかった世帯が対象
- 「高等学校等就学支援金」も「高校生等臨時支援金」も「多子世帯」であることは要件に含まれない。
なお、もう1つ高校生対象で名前が似ているものに「⾼校⽣等奨学給付⾦(奨学のための給付金)」という制度があります。
こちらの制度の方は、この記事を書いている2025年4月段階では、給付金額の変更があった程度で、所得制限に関する変更点はない様子です。

あとは、高等学校等就学支援金に上乗せするかたちで、独自に授業料支援制度を実施している都道府県がありますので、そちらの動向がどうなるのかというのが気になるところです。
【少し関係あり】高等教育の修学支援新制度の改正
続いて「高等教育の修学支援新制度」についてです。
そもそもですが、基本的に「高等教育」の中に「高等学校」は含まれていません。
大学、短期大学、高等専門学校(4・5年生)、 専門学校が対象になります。
ですので、通常の私立高校事務員の仕事には、今回の改正の影響はないと思っていただいても問題ないと思います。

一応簡単に触れておくと、高等教育の修学支援新制度は「給付型奨学金」と「授業料等減免」の2本柱で構成されています。
所得に応じて、給付される奨学金の金額と授業料等の減免額が変わるという仕組みです。
どちらも大学等に進学したあとで受けるものであるため、高校側はあまり関係がないということになります。
あえて言うとすれば「日本学生支援機構奨学金の予約採用」が関係するケースが考えられますので、以降はその点について整理していきましょう。
そもそも何のことかわからない人のために、「日本学生支援機構奨学金」と「予約採用」という言葉の意味を以下にまとめておきます。
まず、日本学生支援機構奨学金についてです。
日本学生支援機構という文部科学書所管の組織があり、その組織の主な活動の1つとして「奨学金事業」があります。
この奨学金事業は、前述した大学や短期大学等に通う学生の経済的支援を主な目的としたもので、「給付」と「貸与」があり、それぞれ申し込むにあたって学力や所得の基準が設けられています。
これが日本学生支援機構奨学金の説明になります。
次は、予約採用についてです。
この奨学金ですが、大学や短期大学等に進学を「予定している」高校3年生が、高校在学中に申し込むことができます。
これを「予約採用」と言います。
保護者等がこの予約採用の申込みを考えている場合、事務室に問い合わせをする可能性が考えられるわけです。

私の今までの勤め先や他の高校の様子からすると、多くの学校は教員が予約採用業務を担当している様子です。
なので、問い合わせがあればそちらに回すという手もありだと思います。
基本情報を確認したところで、次は押さえておくべきポイントを整理しておきましょう。
ポイントは以下の2点です。
- 給付奨学金:多子世帯を対象とした所得区分がある
- 授業料等減免:多子世帯に限り所得区分が撤廃された
厳密に言うと、前者の方は2024年度の改正になります。
前述のとおり、この制度は「給付型奨学金」と「授業料等減免」の2本柱です。
そのうちの1つである「給付型奨学金」の対象となった場合、所得によって給付される奨学金の金額が変わるかたちになっています。
以下の表は私立の大学、短期大学、専修学校(専門課程)に進学した場合の給付型奨学金の金額です。
所得が第Ⅰ区分に該当する世帯は、学生が自宅通学の場合38,300円の奨学金が給付されるという見方になります。
ここに、多子世帯のみが対象となる金額区分(第Ⅳ区分)が2024年度より追加されています。
自宅通学 | 自宅外通学 | |
第Ⅰ区分 | 38,300円 | 75,800円 |
第Ⅱ区分 | 25,600円 | 50,600円 |
第Ⅲ区分 | 12,800円 | 25,300円 |
第Ⅳ区分 | 9,600円 | 19,000円 |

おおまかには「年収 600 万円以下程度の多子世帯」が第Ⅳ区分に該当し、表に記載された金額の奨学金が給付されるというイメージです。
今回の改正内容ではありませんが、保護者等から問い合わせを受ける可能性がありますので、理解しておきましょう。
もう1つの柱である「授業料等減免」の方が今回の改正の対象になります。
授業料等減免の方も給付型奨学金と同様に、所得区分によって減免額が変わる仕組みになっています。
しかし、2025年度より「多子世帯」に該当すれば、所得に関係なく満額の減免が受けられるようになったのです。
これが今回の改正の重要ポイントとなります。
繰り返しの内容になりますが、もし問い合わせ対応をする場合、以下の点を理解しておけば問題ないと思われます。
- 「給付型奨学金」には、多子世帯限定の金額区分がある(2024年度より)が、所得基準が撤廃されたわけではない。
- 多子世帯だと所得に関わらず「授業料等減免」の対象となる

所得制限が撤廃されたのは「授業料等減免」の方だけと覚えておきましょう。
まとめ
「所得制限の撤廃」の直接的影響があったのは以下の2つの制度
- 高等学校等就学支援金(高校生等臨時支援金の創設)→高校生が対象
- 高等教育の修学支援新制度の「授業料等減免」→大学生等が対象(多子世帯に限る)
(2025年4月現在の情報)
今回の「所得制限の撤廃」がどのように私立高校事務員の仕事に影響しているか、私なりに情報を整理してみました。
正直なところ、実務を行っている事務員でもすべてを理解することが難しいという印象です。
生徒や保護者等にとっては、なおさらわかりにくいのではないでしょうか。
今回の記事を参考にして、皆さまも情報を集めていただき、知識をアップデートしていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。