この記事の目的は、以下のとおりです。
・有形固定資産に関する日常の仕訳ができるようになる
・有形固定資産に関する基本知識を身につける
・「改良」と「修繕」の違いを理解する
今回は、簿記3級の範囲のうち「有形固定資産」について、学校法人での業務に関するものに絞って解説します。
〇 | 簿記の基礎 | 〇 | その他の取引 |
× | 商品売買 | 〇 | 帳簿 |
〇 | 現金預金 | 〇 | 試算表 |
× | 手形と電子記録債権(債務) | 〇 | 伝票と仕訳日計表 |
〇 | 有形固定資産 | 〇 | 決算手続 |
学校法人は、教育や研究活動を行うために、建物やパソコンなどの機器といった有形固定資産を数多く保有する必要があります。
そのため、それらの資産の購入や管理は、学校法人の永続的な活動を維持するために大変重要となります。
また、有形固定資産に関する仕訳を誤った場合、補助金の不正受給として指摘されることもありますので、注意が必要です。
それでは早速、この有形固定資産をどのように処理するのかを学びましょう。
参考書籍
書籍名:みんなが欲しかった!簿記の教科書 日商3級 商業簿記 第12版
著者名:滝澤ななみ
発行所:TAC出版
発売日:2024年2月26日
【全体図】簿記3級における「有形固定資産」の範囲
参考書籍の目次から、項目を抜粋すると以下のようになります。
- 有形固定資産とは
- 有形固定資産を購入したときの処理
- 改良や修繕をしたときの処理
今回は、どの項目も学校法人の業務に関わりがありますので、それぞれ解説します。
なお、仕訳の解説の際に使用する勘定科目名は、学校法人によって多少異なる可能性がありますので、各自ご確認ください。
有形固定資産とは
まずは言葉の定義から確認しましょう。
定義
参考書籍では以下のように説明しています。
有形固定資産とは、建物や備品、土地、車両運搬具など、企業が活動するために長期にわたって使用する、具体的な形のある資産をいいます。
P117
「企業が」の部分を「学校法人が」に置き換えて理解すれば問題ありません。
具体例を見てみましょう。
勘定科目 | 具体例 |
土地 | 校地 |
建物 | 校舎、体育館 |
構築物 | プール |
機器備品 | パソコン、実験装置 |
図書 | – |
図書が資産に分類されている点が、学校法人における有形固定資産の特徴の1つです。
ただし、図書であれば全て有形固定資産というわけではありません。
「長期間にわたって保存、使用することが予定される図書」と定義されています。
逆に「学習用図書」「事務用図書」は有形固定資産として扱わなくてもよいとされています。
そのため、どのようなものを「図書」とするかは、各学校法人で基準を設けていることが多いです。
私の勤めてきた学校では、例えば「英検」の参考書は図書室に置いていても「学習用図書」と扱い、有形固定資産ではありませんでした。
(補足)少額重要資産
「図書」とならんで、学校法人における有形固定資産の特徴的な取扱いとして「少額重要資産」があります。
具体例としては、学生生徒用の机、椅子、書架、ロッカー等の常時相当多量に保有するものが該当します。
仕訳を行う際の知識として覚えておきましょう。
有形固定資産を購入したときの処理
取得原価=購入代価+不随費用(運送費や設置費等)
業務内容
- 購入した有形固定資産の代金を支払う
- 固定資産台帳に有形固定資産を登録する
- 年に1回程度、現物の確認を行う
仕訳は①の段階で行います。
仕訳
では、実際に有形固定資産を購入した場合の仕訳を見てみましょう。
(例)パソコンを1台200,000円で購入し、支払口座から代金を支払った。なお、購入にあたって運送料1,000円が発生したため、代金と一緒に支払った。
まずは分解です。「パソコン200,000円」「支払口座200,000円」にひとまず分けます。
続いて、グループ分けと増減確認、左右の設定をします。
項目 | グループ | 増減 | 配置 |
パソコン | 資産 | 増加 | 左 |
支払口座 | 資産 | 減少 | 右 |
最後に仕訳です。パソコンは「機器備品」という「資産」グループの勘定科目で処理します。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
機器備品 | 200,000 | 支払口座 | 200,000 |
しかし、まだ運送料1,000円が処理されていません。
ここで、大切なルールがあります。
それは「有形固定資産を購入した際の運送費などは、有形固定資産自体の代金に含める」ということです。
このときの「有形固定資産自体の代金」のことを「購入代価」といい、この場合の運送費のようなものを「付随費用」といいます。
つまり、購入代価200,000円に運送費1,000円を含めるということです。
この「購入代価+付随費用」を「取得価額」と呼びます。
従って仕訳は以下のようになります。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
機器備品 | 201,000 | 支払口座 | 201,000 |
このパソコンは会計上200,000円ではなく201,000円の価値があるということになります。
ただし、1点注意があります。
それは「図書」については付随費用を取得価額に含めないという点です。
ややこしいですが、覚えておきましょう。
改良や修繕をしたときの処理
「改良」のときの処理については、参考書籍で以下のように説明しています。
有形固定資産の価値を高めたり、耐用年数を延長させるための工事を改良といいます。この改良にかかった支出を資本的支出といい、資本的支出は、建物[資産]などの該当する有形固定資産の勘定科目で処理し、取得原価に含めます。
P120
改良例)建物の防火・防音工事
「修繕」の処理についても、参考書籍を引用させていただきます。
有形固定資産の本来の価値を維持するための工事を修繕といいます。この修繕にかかった支出を収益的支出といい、収益的支出は、修繕費[費用]で処理します。
P120
修繕例)壁のひび割れの修復
私の今までの勤め先や他の学校法人事務員の話からすると「改良」と「修繕」を判断する基準は、各学校法人で設けていますので、処理する際には確認しましょう。
「改良」の仕訳
(例)建物の防音工事を実施し、1,000,000円を支払口座から支払った。
(分解)
「防音工事1,000,000円」と「支払口座1,000,000円」
(グループ分け、増減確認、左右判断)
項目 | グループ | 増減 | 配置 |
防音工事 | 資産 | 増加 | 左 |
支払口座 | 資産 | 減少 | 右 |
(仕訳)
今回は「建物の防音工事」のため、勘定科目は「建物」になります。もちろん「資産」グループです。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
建物 | 1,000,000 | 支払口座 | 1,000,000 |
「修繕」の仕訳
(例)建物の壁面のひび割れ修理工事を実施し、500,000円を支払口座から支払った。
(分解)
「ひび割れ修理工事500,000円」と「支払口座500,000円」
(グループ分け、増減確認、左右判断)
項目 | グループ | 増減 | 配置 |
ひび割れ修理工事 | 費用 | 増加 | 左 |
支払口座 | 資産 | 減少 | 右 |
(仕訳)
「ひび割れ修理工事」の勘定科目は「支出」グループの「修繕費」になります。
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
修繕費 | 500,000 | 支払口座 | 500,000 |
【補足】「改良」と「修繕」の判断を誤った際の影響
この「改良」と「修繕」の違いを理解していない場合、最悪のケースでは補助金の不正受給として、国に報告されることになります。
なぜそのようなことになるかというと、例えば「改良=建物」の場合、補助金の対象とならないことが多いからです。
学校法人が国や地方公共団体から、毎年受ける補助金があります。
「経常費補助金」など名称は様々ですが、要するに学校法人の規模等に応じて支給される補助金のことです。
国や地方公共団体がこの補助金の額を計算する際、学校法人の年間の支出見込額(予算)を基にしますが、その計算ルール上、支出見込額に土地や建物は含みません。
少なくとも私は含まれているのを見たことがありません。
つまり「補助金対象外」の支出となるため、もし誤って「修繕費」として取り扱っていた場合は「経費の水増し」とみなされるわけです。
この点は、私もかなり注意を払いながら処理してきました。
たかが勘定科目と考えずに、慎重に判断する必要があります。
まとめ
学校は有形固定資産のかたまり!一つ一つ慎重に確認して処理にあたりましょう。
今回の記事は、簿記の学習範囲に関する部分がメインでしたので、有形固定資産の管理については触れませんでした。
有形固定資産の管理も私立学校事務員として大切な仕事の1つですので、どこかの折に記事にしたいと思います。
まずは、今回の記事の内容を理解し、適切な処理を心掛けていただければと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。