この記事の目的は、以下のとおりです。
・事業活動収支計算書の見方を理解する
・「3つの収支差額」の意味を理解する
・「3つの収支差額」から経営状態を把握できるようになる
前回の記事で、事業活動収支計算書の概要を解説しました。
今回はその内容を踏まえて「具体的にどこをチェックするべきか」をお伝えさせていただきます。
ご自身の勤め先、または勤めようと考えている学校の経営状態を把握できるようになるために、ぜひお読みください。
参考書籍
書籍名:学校法人会計入門[第7版]
編者名:新日本有限責任監査法人
発行所:税務経理協会
発売日:2015年5月20日
3つの収支をチェック!事業活動収支計算書の見方
前回の記事で、事業活動収支計算書は「収支の均衡状態(バランス)を把握するものさし」ということをお伝えしました。
あわせて、その「ものさし」の目盛りについても解説しました。
その中で、経営状態を把握するために特に重要な目盛りは以下の3つです。
- 経常収支
- 基本金組入前当年度収支
- 当年度収支
様式で示すと、以下の網掛け部分①~③になります。
どのポイントから見るか決まりはありませんが、私の経験上のおすすめは「上から順に見る」です。
ただし、1つ大事なことがあります。それは「複数年比較して見る」ということです。
その年度の特殊な事情により、収支が変動しますので、複数年見比べて傾向を見る必要があります。
【最初のチェックポイント】経常収支
〔求め方:教育活動収支+教育活動外収支=経常収支差額〕
「特別な事情を除き、毎年入るお金で、毎年出るお金を工面できているか」ということです。
サラリーマンで例えると、以下のイメージです。
(年収-生活費)+(預金利息-ローン利息)
預金利息の収入は額が小さいので、実質は年収で生活費とローン利息を賄うことになります。
つまり、この収支がマイナスの状態の場合、年収で生活費かローン利息のどちらかが賄えていないことを意味します。
ローン利息が支払えていないということは、ローン返済が滞っていることとなり、家計としては厳しい状態と言えます。
まずは、この収支がプラスの傾向かマイナスの傾向かをチェックしましょう。
マイナスであれば、要注意です。
【経営健全化のポイント】基本金組入前当年度収支差額
〔求め方:経常収支+特別収支=基本金組入前当年度収支差額〕
「臨時的な要因も含めたうえで、家計のやりくりができたか」ということです。
サラリーマンで例えると、以下のイメージです。
(年収+預金利息-生活費-ローン利息)+(臨時収入-臨時支出)
臨時的な要因の内容によって、この収支差額は大きく変動する可能性があります。
特別収支の金額を複数年分確認したうえで、毎年の収支状態の傾向をチェックしましょう。
プラスの傾向があれば、臨時的な支出にも対応できる余裕をもった家計のやりくりができていると考えられます。
なお、日本私立学校振興・共済事業団が毎年「大学・短期大学・高等学校の財務状況」を報告しますが、その際に経営健全化のポイントとして重要視しているのが、この基本金組入前当年度収支差額を用いた「事業活動収支差額比率」です。
参考までに計算式を紹介します。
事業活動収支差額比率(%)=基本金組入前当年度収支差額÷事業活動収入×100
事業活動収入は、上記の表の右端に※印をつけた箇所に記載されています。
【収支均衡のポイント】当年度収支差額
〔求め方:基本金組入前当年度収支差額+基本金組入額〕
「自分のお金で、その年度に消費するものに加えて、将来に渡って必要なものまで確保できたか」ということです。
これも、サラリーマンに例えてみると、以下のとおりです。
「自分のお金」=給料や資産運用による利息など
「その年度に消費するもの」=文房具や光熱水費、食費など
「将来に渡って必要なもの」=車や冷蔵庫、仕事で使うパソコンなど
「自分のお金」-「その年度に消費するもの」-「将来に渡って必要なもの」
なお「自分のお金」は、借金など返済が必要なものだけでなく、自分の貯金の取り崩しも含みません。
借金や今まで溜めてきたお金に手を付けずに、生活を支障なく継続し、かつ将来に渡って必要なものも確保することが、学校法人を経営するうえで求められています。
この当年度収支差額の均衡状態を把握することが、学校法人会計基準で定められた事業活動収支計算書の役割となります。
もちろん、毎年同じように均衡させることは困難です。
この収支差額は、プラスやマイナスの傾向を見るのではなく、プラスとマイナスの繰り返しで、中・長期的に見て均衡しているかどうかを把握するものと理解しましょう。
そのために、上記の表の右端に③’をつけた「翌年度繰越収支差額」とセットで確認します。
「翌年度繰越収支差額が均衡状態に近づいているか」が見るポイントです。
ここでもやはりポイントは「複数年比較」です。
まとめ
経常収支差額を見て、日常生活に問題がないかをチェック
基本金組入前当年度収支差額を見て、家計の安定性をチェック
当年度収支差額を見て、中・長期的な収支のコントロールができているかチェック
以上、皆さまが学校の経営状態を把握することの一助になれば幸いです。
次回の記事は貸借対照表に関する内容を予定しています。
皆さまの数字力アップにつながる内容となるように、まとめますのでよろしくお願いいたします。