この記事は、こんな人を対象としています。
・私立学校の事務員で、学校法人会計基準を学ぼうと考えている方
・私立学校の事務員になる予定、または目指す方
・以前に、学校法人会計基準を学んで挫折した方
・そもそも学校法人会計基準がなぜ制定されたか知りたい方
「私立学校の事務員として、学校法人会計基準は勉強しておいた方がいいのかな」と思ったことがある人はたくさんいるのではないでしょうか。
また、実際に勉強しようとして、「理解できない」と途中で挫折した人も多いと思います。
私自身の経験や他の学校法人に勤める事務員の人からの情報によると、学校法人会計基準の基礎的な内容を勉強する機会はほとんどありません。
会計担当部署に配属になった際に、外部のセミナーに参加するように言われる程度で、会計とは関係ない部署の人にとっては、縁のない話で終わってしまいます。
そこで、そんな「挫折した人」や「そもそも学ぶ機会がない人」に向けて、これまで20年以上私立学校で事務員として働き、その約9割の期間、経理・会計業務に従事してきたブログ管理人が、その経験に基づき「理解しておくべきポイント」を厳選して解説させていただきます。
まずは、学校法人会計基準の制定経緯について解説します。
近々、大きな改正がありますので、その前に一度現状を理解するための一助となれば幸いです。
参考書籍
書籍名:学校法人会計入門[第7版]
編者名:新日本有限責任監査法人
発行所:税務経理協会
発売日:2015年5月20日
学校法人会計基準はまもなく改正がありますが、改正前に現状を理解するという意味で、改正前の内容の書籍を選びました。
学校法人会計基準の制定経緯について
結論:行政(国や地方公共団体)による私学助成の実現のために制定
「私立学校法」
私立学校が「公的な存在」であることの法的根拠
「私立学校振興助成法」
公的な存在である私立学校への財政的援助のための基本的ルール
「学校法人会計基準」
適正な財政的援助のために学校法人が守るべき会計処理ルール
このポイントを意識しながら、以下の経緯をお読みいただければと思います。
日本の教育における「私立学校の重要性」に関わる内容のため、私立学校に勤める者として理解しておく必要があります。
昭和24年(1949年) 「私立学校法」制定
まず、私立学校法が制定されました。
私立学校法制定の経緯は、また別の機会にまとめたいと思います。
その制定の目的は以下のとおりです。
1)私立学校の自主性を重んずる教育行政組織を確立すること、2)私立学校の経営主体の組織・運営を定めてその公共性を高めること、3)憲法第八十九条との関係において私立学校に対する公の助成の法的可能性を明確にすることをねらいとしたものであった。
文部科学省HPより
つまり「私立学校は公的な存在だから、行政からの助成を受けても問題ないですよ」ということを法的に位置づけたということですね。
この私立学校法では、決算(計算書類作成)の義務化を定めています(同法第46条、47条)。
しかし、その計算書類に作り方については確たるルールがない状態でした。
これが後々、私学助成について影響を及ぼします。
昭和30年代後半 戦後ベビーブーム世代の高等学校進学
この年代の出来事を時系列にまとめると以下のようになります。
- 戦後のベビーブームの世代が高等学校へ進学
- 進学率上昇
- 私立高等学校が受け皿に
- 生徒増に伴う、教育・研究環境の早急な整備が必要
- 私立高等学校独自の財源だけでは整備は困難
- 私立高等学校の財政状況悪化
私立学校が、日本の教育面で重要な地位を占めるようになりますが、それを担えるだけの資金的な余裕がないという状況です。
昭和40年代
以上のような経緯を受けて、私立学校に対する公費助成の意見が挙がりました。
しかし、公費助成をするためには、各学校法人の経営状態を把握する必要があります。
生活困窮の人に10万円給付、裕福な人にも10万円給付しても、生活に与える影響が違うというイメージですね。
ちゃんと、各家庭の家計状況を把握したうえで支援が必要ということです。
しかし、ここで問題が生じました。
学校法人の経営状態を十分に把握できていないことが判明しました。
計算書類の作り方に確たるルールがないから、極端に言うと、同じ経営状態の学校法人でも計算書類を見ると、一方は経営状態が悪い、もう一方は経営状態がよいということもあり得たわけですね。
昭和46年(1971年) 学校法人会計基準の制定
このような状況を受けて、学校法人共通の会計処理のルールとして「学校法人会計基準」が制定されました。
昭和50年(1975年) 私立学校振興助成法の成立
「私立学校法」で学校法人を公的なものとして位置付けて、「学校法人会計基準」で経営状況を把握することができるようになりました。
あとは、助成をするための具体的なルールなどを定めた法律が必要ということで「私立学校振興助成法」が成立しました。
この法律は、私学振興助成についての国の基本的姿勢と財政援助の基本的方向を明らかにしたものであり、私立学校が国の財政援助についての法的保障の下に教育条件の維持向上などの努力ができることになったという意味で、私学振興史上画期的な措置といえるものです。これによって私立大学等経常費補助金や昭和50年度に創設された私立高等学校等経常費助成費補助金の法的根拠が整備され、また学校法人に対する税制上の優遇措置など私学振興施策の充実が図られることになりました。
文部科学省HPより
この私立学校振興助成法のなかで、「補助金の交付を受ける学校法人は、文部科学大臣の定める基準に従い、会計処理を行い、貸借対照表、収支計算書その他の財務計算に関する書類を作成しなければならない」と定めています(同法第14条より抜粋)。
この「文部科学大臣の定める基準」が「学校法人会計基準」を指します。
補助金の交付を受けるためには、学校法人会計基準に則って会計処理をして、計算書類を作りなさいということですね。
以上が学校法人会計基準の制定経緯となります。
まとめ
【私立学校は日本の教育の大黒柱】
「学校法人会計基準」制定の経緯を意識して、日々の業務に取組み、助成を受けるにふさわしい学校づくりを担いましょう。
直接、決算や補助金交付に関わる業務に携わっていない事務員の人でも、自分の給与や仕事で使用したお金が「学校法人会計基準」によって処理され、行政からの助成に関係しているということを意識しましょう。
それが事務員の「数字力」向上につながります。
以上、参考となれば幸いです。
次回の記事も、学校法人会計基準に関する内容を予定しています。
できるだけわかりやすく解説するように心がけますので、よろしくお願いいたします。