
この記事の内容は、以下のような人を対象にしています。
・私立学校事務員の仕事に損害保険の知識が必要なのかという疑問を持っている人。
以前の記事で、ファイナンシャル・プランニング技能検定(以下、FP技能検定)3級の試験範囲の中から私立学校事務員の仕事に役立ちそうなものを紹介しました。
今回はその続きとして、「損害保険の基本」の部分で私立学校事務員として知っておくべきと私が感じたものをピックアップしてみました。
前回と同様に、FP技能検定3級の試験を参考にした問題を解きながら、必要な基礎知識を身につける形式にまとめています。
問題を全部で5問用意し、全ての問題のあとにこの「損害保険」に関連した情報を紹介しています。
「損害保険の知識を事務員の仕事で使うことなんかないのでは?」と思っている方も、一読いただければと思います。
【第1問】自動車保険①
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)で補償の対象となるのは次のうちどれか。
正解:A
自賠責保険で対象となるのは、対人賠償事故のみです。
対物賠償事故の補償を受けるためには、任意保険に加入する必要があります。
【第2問】自動車保険②
自動車を運転中にハンドル操作を誤ったため、壁に衝突し、運転者がけがをした。運転者が被保険者の場合、次のどの保険に加入していれば、補償の対象となるか。
正解:C
対人賠償保険では、運転者自身のけが等は補償されません。
一方、人身傷害補償保険は、自分や同乗していた家族のけがなどを補償します。
【第3問】普通傷害保険
普通傷害保険(特約付帯なし)で、一般的に補償の対象とならないものは次のうちどれか。
正解:B
国内旅行中の飲食による細菌性食中毒は、国内旅行傷害保険に加入することで補償の対象となります。
【第4問】個人賠償責任保険
個人賠償責任保険(特約)で、被保険者が法律上の損害賠償責任を負うことによって損害を被る場合に、補償対象となるケースは次のうちどれか。
正解:C
個人賠償責任保険は、個人やその家族が日常生活で誤って他人にけがを負わせたり、また他人のモノを壊してしまうなど、法律上の損害賠償責任を負った場合の損害を補償する保険です。
火災保険などの特約として加入するケースが多いようです。
なお「業務中」は対象外であり、「自動車運転中」は自動車保険の対象となります。
【第5問】保険料控除
所得税において、個人が支払う地震保険の保険料控除の限度額として正しいものはどれか。
正解:C
地震保険料は所得税では5万円を限度額として、全額が控除対象となります。
なお、住民税では支払った地震保険料の1/2(限度額2.5万円)が控除となります。
【理解度アップ】安心安全な学校づくりと損害保険
お金の面からみた学校法人の特徴の1つとして挙げられるのが「固定資産の多さ」。
そうした固定資産を守るためにも、損害保険への加入は必須です。

例えば、校舎や備品等を対象とした火災保険、地震保険といったものですね。
こうした保険に加入し、災害など被害を被った場合でも、速やかに復旧して教育活動を提供できるように備えておく必要があります。
また、公用車を所有している場合、万が一の事故に備えて自動車保険の任意保険に加入しておくべきでしょう。
このように不測の事態に備えて、必要な保険に必要な補償範囲で加入しておくことは、私立学校事務員の「リスク管理」業務の1つだと思います。
その適切な保険選びのために、損害保険の基礎的な知識を備えておきましょう。
さらに、直接生徒が関係する損害保険等もありますので、以降はそうした制度について紹介したいと思います。
具体的には以下の2点です。
- 災害共済給付制度
- 中高連団体保険制度
どちらも中学や高校の事務室勤務の方向けの内容となっていますので、ご了承ください。
【けがのときはこれ】災害共済給付制度
これは損害保険ではありませんが、この制度を理解しておくことが損害保険を活用した安心安全な学校づくりにつながると考えていますので、紹介させていただきます。
この制度を利用するためには、独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下、スポ振)という組織と学校が契約する必要があります。
契約には掛金を支払う必要があり、その掛金は保護者と学校とが案分して支払うことになります。
案分にはルールが定められていますので、高校を例にしてみてみましょう。
まず、高校が加入する場合の生徒一人当たりの掛金は2,150円になります(2025年度実績)。
そして高校の場合、掛金の6~9割を保護者負担、残りを学校負担といったかたちで案分するわけです。
仮に保護者を6割負担にすると、
2,150円×60%=1,290円
これを保護者から徴収し、学校負担分860円とあわせてスポ振に振り込みます。

ちなみに、今の私の勤め先は保護者9割負担です。
こうして契約が完了すると、生徒はけがをした場合などに医療費等の給付を受けられるようになります。
ただし、どんなけが等でも給付を受けられるわけではなく、「学校の管理下」におけるものでなければなりません。

ざっくり「授業や課外活動中」と覚えておけば問題ないと思います。
この制度と損害保険とが関わってくるケースの1つとして「旅行保険」があります。
修学旅行等において、旅行会社から旅費以外に旅行保険代を請求される場合があります。
上述の「学校の管理下」には修学旅行中も含まれていますので、修学旅行中の生徒のけがはこの制度でカバーできるというわけです。
このことを踏まえながらどこまで補償が必要かを検討したうえで、旅行保険を選ぶようにしましょう。

引率教員については、私学共済の短期給付がありますので、そちらもあわせて検討することをおすすめします。
また、この制度には対人・対物といった補償はついていません。
そのため、「誰かをけがさせた」や「他人のモノを壊した」という場合に補償を受けるためには、別途個人賠償責任保険に加入しておく必要があります。
私の以前の勤め先では、良いように言えば「活発な」生徒が多く、そうした生徒による扉やガラスの破損がたびたび起こっていました。
生徒個人が個人賠償責任保険の対象となっていれば、修理代を保険金で賄うこともできますが、未加入の場合の学校負担は正直バカになりません。

「スポ振の制度が対物補償だったらいいのに」と何度も思いました。
スポ振の制度の補償範囲を理解したうえで、その範囲外を損害保険加入も含めてどうするかを考える。
安心安全な学校づくりに必要な視点だと実感しています。
【学校の守りを固める】中高連団体保険制度
こちらの制度は、学校に対する補償がメインとなっています。
正直なところ、私は以前の勤め先ではこのような制度が存在していることを知らず、今の勤め先に転職してから知りました。
そこで、私のような人のためにこの制度を紹介しておきたいと思います。
こちらの制度は、
- 生徒への補償に備える団体保険制度
- 教職員・役員への補償に備える団体保険制度
の2つに大きく分かれています。
特に私が大事だと思うのが前者の方。
その中でも、「学校が賠償責任を負担する場合」を対象とした保険制度が2つあります。
- 中高連 私立学校賠償責任保険制度
- 中高連 私立学校スクールプロテクター保険制度

2つとも、今の勤め先で実際に加入している制度になります。
なお、保険料等は公表されていない様子のため、ここでは紹介を差し控えさせていただきます。
中高連 私立学校賠償責任保険制度
制度の概要は以下のとおりです。
学校施設の欠陥や管理上のミス、学校業務遂行中(授業・クラブ活動・修学旅行 等)に生じた事故によって生徒や保護者などの第三者の身体に障害を与えた際の治療費や慰謝料、財物に損害を与えた際の修理費などを補償します。(学校が賠償責任を負担する場合が対象)
日本私立中学高等学校連合会ホームページより引用
前述のとおり、学校は校舎など施設設備を多く保有しています。
また、クラブ活動中などにおいてちょっとした不注意で事故が生じることもあります。

実際以前の勤め先では、クラブ活動中に生徒が大きなけがをしたことについて、学校の賠償責任問題に発展しそうになったことがありました。
そんな経験もあり、こうした事故は完全に防ぎきることが難しいように感じています。
そのような事態に備えて、学校として保険に加入しておくことも選択肢に加えておくべきではないでしょうか。
中高連 私立学校スクールプロテクター保険制度
こちらはさらに、前述の「中高連 私立学校賠償責任保険制度」でカバーしていないところを補償しているものになります。
これも解説を引用します。
私立学校賠償責任保険では補償の対象とならない「学校の事務手続きのミス」「入試での合否判定ミス」「個人情報の漏えい」「体罰・セクハラ・いじめ・差別」によって発生した生徒(保護者)の経済的な損失を補償します。(学校が賠償責任を負担する場合が対象)
日本私立中学高等学校連合会ホームページより引用
ニュースで「合否判定ミス」や「体罰」といった言葉を聞く機会が多いと思います。
これらの問題は決して他人事ではありません。
もちろん、あってはならないことなのは当たり前ですが、人間がやることですので、どこかにミス等が生じることは避けられません。
そうした場合に、被害者へ適切な補償ができるように準備しておく必要があると私は思っていますので、おすすめします。
まとめ
「安心安全な学校づくりのために損害保険に関する知識は必要」
これが私の実体験等に基づく思いです。
当然、普段からの施設設備の保守・点検などは行う必要があります。
しかし、想定外の事態は起こるものです。
その時に備えて、生徒や保護者が不安を感じないように対策を施しておくことも大切です。
損害保険に関する正しい知識を身につけて、リスク管理できるようにしておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。